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少年野球~軟式と硬式のどちらを選択したら良いのでしょうか?

私はトレーナーとしてプロ野球の世界で多くの新人選手達の野球歴を調べてきました。これは小学生から高校生までの時期に、軟式野球、硬式野球のどちらを選手達が行ってきたのか?という情報や、それまでポジションは何処をやってきたのか?というものです。更にその途上において、どのような程度のケガ(既往歴)をしてきたのか?途上で肩や肘に問題は起こらなかったのか?という事を入団時に調べておくことで、その後のプロ野球生活によって起こるであろうスポーツ障害を予測しながら、新人選手達の今後の育成やメディカル・チェックに役立たせていく目的で調べてきました。

そういったデータを積み上げながら私自身が心の中で感じてきたことは、もし小学校2,3年生からピッチャーというポジションを望んで野球を始めるのであれば、私は軟式野球から始める事を薦めたいと考えています。何故ならそういった時期に硬式のボールで投球を開始するとすれば、およそ年齢が7歳、8歳からですから、もしその後に投手を続けて高校、大学、そして社会人やプロに入団したとすれば、大学4年生まで野球をやっている時点でも「学生時代に14年間、硬式ボールで投球を続けている」ことになるからです。

しかしもし小学校、中学校時代に軟式野球を行って、その後の高校から大学時代の学生時代に硬式野球をやったとしても「硬式ボールでの投球はおよそ7年間」で済むことになります。これは肩肘にとっても非常に有利な点が多いように思います。要は人間の体というのは鍛錬もされますが、身減りもする・・・ということなのです。

特に肩・肘・腰というのは野球の動作で負担の及びやすい部位であり、もしそこを故障してしまうと最も選手生命を短くしてしまう元凶となるものになります。これらは私自身がデータから読み取ってきた、選手達の将来的な予測と現実を照らし合わせて感じてきた部分ですが、もちろん「例外」もあります。

そしてその例外・・・というのは、所謂 もって生まれた選手個人の天性の身体的な強さであり、それは後天的に鍛錬され培われていく類の強さ以外の部分であり、私観で述べたのはあくまでも平均的な選手達の現実に照らし合わせた上での考えになります。

ですから今後、お子さん達がどのような野球歴を迎えていくにせよ、その結果として故障に結びつく前に、何らかの手立てや方策さえ出されるのであれば、軟式であっても硬式であっても、本来はどちらでも良いのではないか?という部分を兼ね備えた中で、「安全策」として、中学校まで軟式であっても良いのではないか?というのが私の感じてきた回答・・ということになるのです。

もう10年以上前になりますが、大学から一人の新人投手がファイターズに入団してきました。彼は高校まで軟式野球をやって大学生になって初めて硬式野球を経験した・・・とのことでした。しかしそのような野球歴であっても、有能だと判断されればプロ野球選手になれるのです。だから何が何でも硬式を早い時期から始めなければ、プロにはなれない・・・というのは迷信ではないかと私は思います。

昔 ヤクルト・スワローズに荒木大輔選手という素晴らしいピッチャーがおりましたが、リトルリーグからピッチャーをやって少年時代に世界大会まで行き、高校時代は甲子園で投げ抜きながら、その後にプロに入団してきました。しかしプロ入団後には10年を経ずに肘や腰などの故障を起して結局、短命に終わってしまったのを皆さんもご存知ではないかと思います。

それだけ硬式ボールによる投球は肩肘に負担がかかるものであるということは認識しておいた方が良いと思います。(もちろん上記の理由から例外もありますが・・・)

そしてこれは軟式・硬式に関わらず、ボールを投げる動作では肩肘の関節に負担が及びやすい・・ということを大前提にお話することですが、ピッチャーと内野手・外野手では試合時の投球数は桁違いに違う・・ということになります。少年野球のチームでも、ピッチャーはある程度コントロールが良くてスピードもあって、ゲーム運びが計算出来るチーム内の優良選手に任せることになりますから、そういったセンスをお持ちのお子さんはピッチャーを任せられることが非常に多いと思います。

バッティングに関して言えば、少年野球というのは金属バットで行っていますから、それほど負担はないだろう・・・と考えられていますが、軟式のボールと硬式のボールでは、バットにボールが当たった時の衝撃が全然違います。やはり硬式のボールは軟式のボールに比べれば硬いですし重たいのですから、たとえ金属バットであっても硬式ボールの方が肩や肘、手首に関する衝撃は強いものとなります。

もし小学校の高学年から硬式野球を望んでいるのであれば、まず「チームを選ぶ」というよりも、そこに存在する「指導者」そのものの質を見極めて決めるべきではないかと私は思います。投球動作やバッティング動作、走動作や守備動作といった野球の基本的な動作そのものをきちんと理解させ教えてくれる指導者がいなければ、硬式野球を行っていく上でそこに有効性が見出せません。だからまず指導者の質を見極めておく事は大切です。

それから運動レベルとしては、硬式野球は軟式野球よりも高いレベルが求められていきます。特に肩肘の強さはもとより、下半身や腹背筋のしっかりとした土台が無ければ、硬式野球は故障に繋がりやすいスポーツとなります。現時点でそういった基本的な身体能力や身体機能がしっかり備わっているのであれば、小学校高学年から硬式野球を行っても良いと思いますが、最終的には投手から入るよりも、内野手から入っていくほうが体の使い方や投球の基本動作、それからバッティング動作を見につけていく上では将来有利な点が多いのではないか?と考えています。

内野手というのは「足を使って投げる」基本的な動作が備わっていきますから、ピッチャーのように「静止した状態からボールを投げる」という特別な投球を行うことが少ないのです。ピッチャーはこういった「特別な体の使い方」と試合や練習での「投球数」が多くなる為、少年時代に投手で野球を続けいけば、その後も投手でプレーしていく傾向にありますので、それが肩肘を壊していく一番多い要因ではないかと思います。

プロ野球選手の中には甲子園を投げ抜いて優勝したような投手も大勢入団してきますし、そういった選手達の中にはリトルリーグから野球を始めている人達も沢山いるのですが、プロで長い期間、ピッチャーを継続するとしても、肩肘そのものは彼らの「資本」であり、「武器」となります。もし肩肘を故障してしまえば、活躍することも出来なくなりますから、そういった点で考えていくと、あまりにも長い期間、投手生活を送ることになれば、当然それらの力はいつか落ちていくことになります。

横浜ベイスターズの工藤投手や阪神タイガースの下柳投手のように40歳になっても若手に負けず劣らずで投げ続けているのは、ほんの氷山の一角ですから、それ以外の投手達は30歳~35歳の間に「身体能力の限界」でプロ野球界を去ってしまっている・・・ということをまず考えていかなければならないと私は感じています。

大学まで野球を続けてプロに入れば、22歳~35歳がプロ野球人生の基本的な年数となります。高校卒業と同時にプロに入団出来たとしても、即 レギュラーで活躍出来る人は限られてきますから、およそ「15年の期間」がある程度の限界年数であり、それ以上の年数をプロ野球で生き残っていく為には、それまでの実績やそれ以外の功績によってチームに残ったり、トレードなどで新たな自分のポジションを得ていく必要があります。

工藤投手にしても下柳投手にしても幾度と無くチームを渡り歩き、マウンドからボールを投げ続けてきましたが、肘への負担から途上で手術を行って投げ続けてきたのです。彼らのようにどれだけ強い肉体を親から授かったとしても、ピッチャーというのはそれだけ肩肘に対する負担は大きく、それだけ体へのケアやコンディショニングは欠かせなかったし、それをしっかり行ってきたからこそ、40歳を過ぎても現役でいられる・・・ということになるのです。

そういった基本的な流れを見ていくと小学校低学年では軟式野球で「基本の投球動作」を身につけながら「体力を養う」ことが眼目となりますし、もし小学校高学年から硬式を行うのであれば「野球の身体能力=投げる、打つ、守る、走る」を体力向上と共に養えるような環境のある「チーム」を選択しておく必要がある・・・ということになります。

これは上を目指して野球をプレーさせたい・・・と考えている親御さんにとっても、お子さん達にとっても大きな課題であると思いますが、肩や肘への負担が及ぶ前に考えておくことは、やはり「足腰=下半身(足首、ふくらはぎ、膝関節)、体幹(腹筋、背筋、股関節)」の強化です。

その大切な体の基本的な動作を身につけさせたり基礎体力の強化を行って故障を発生させないように行わせているチームでは、当然 肩や肘の故障は少ないはずです。そしてそれが中学校や高校で野球を行わせていく、行いたい・・・という希望や目的の上で、一番押さえておかなければならない大切なポイントになっていく・・・ということになります。

軟式や硬式のどのようなレベルにチームがあったとしても、お子さん達に対してまず一番に求められるものは野球が上手である・・・ということの前に「ケガに強い選手=野球の上手なプレーヤー(投げる、打つ、守る、走るといった一連の野球の動作がそつなくこなせれば、故障の危険性は低いものです。)」に育てていく必要がある・・・ということです。

また野球技術というのは体力の上に積み上げられたもので、もし「投げる、打つ、守る、走る」といった基本的な動作に対する基礎体力が伴っていかなければ、その技術を有効に培っていくことが出来ないのが当然であるとしても、それは少年野球に限ったことではありませんしプロ野球選手であってもそれは全く同じことなのです。そして故障が多ければ所詮、長い期間に渡って選手活動を行うことが出来ないのは言うまでもないことだからです。