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打撲や捻挫によってなぜ痛みが長引くのか?

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<難治性の打撲痛や捻挫痛について>

先日、ある方(仮称Aさん)から電話でこんなご相談をお受けしました。

「数ヶ月前に足の甲を強く打撲してしまい、治療を行ってきたものの完全に痛みが引かず、患部の腫れもまだ残っていて困っている。」とのお話しでした。

打撲というと、いわゆる「筋肉のケガ」だけだと思われがちですが、実際には「関節そのもの」をケガしてしまう場合があって、その関節を守っている「靭帯や腱」あるいは「骨や軟骨」を傷めてしまう場合があります。

「打撲=患部を強く打ってしまった事による身体組織の破壊」を意味しますから、その「ケガの程度」や「ケガをした部位(場所)・組織」によっては、なかなか痛みが引かなくなるようなケースも実際にはよくあるのです。

これは何故かというと「身体各部位の組織→筋肉や筋膜・靭帯・腱・骨・軟骨」というものが破壊された後に働く人間の自然治癒力(身体を元に戻そうとする力・働き」にも、ある程度の限界があるからです。

たとえば交通事故などで一番多いケガのなかの一つに「頚椎捻挫=ムチ打ち」があります。これは車と車の衝突事故によって生じる「外力」によって、運転している人の頚部に大きなストレスがかかって首を傷めてしまうケガです。

また打撲というのは何かが身体の一部(靭帯や腱、または筋肉や骨・軟骨)に強く衝撃を与えておこるケガなので、ケガをした部位に腫れが確認出来たりして、客観的に判断しやすいのですが、ムチ打ちというのは捻挫によって生じたケガなので、実際には身体の一部に物は当たりません。しかし「関節に強くストレスがかかって靭帯や腱、または筋肉や骨・軟骨」を傷めてしまうケガになりますから、人の目では確認できない場所で炎症をおこし痛みを発生させている・・・ということになります。

打撲でも捻挫でも「ケガの起こった原因」が違うだけで、本当は「身体のどこの組織を傷めたのか?」ということが一番大切なことであり、実はそこが軽視され誤認されやすいものなのです。

打撲でも捻挫でも、こういった「身体の組織が壊れた」ために、その部位に炎症が生じて痛みを発生させているのですから、治療やリハビリなどを行う際には、身体の各組織に働いている自然治癒力を有効に働かせていく為にも、それなりの経験則によって適切な対応が必要になってきます。

「身体のどこの部位に炎症が残っていて長い期間に亘って痛みを発生させているのか?」というのは、病院でMRI検査やレントゲン検査を行い、その撮影画像を診ても、「視認出来ない=目で確認することができない」ことも実際にはあって、それは何故かというと「微小損傷」といって、「わずかな組織破壊によって起こっている炎症部位というのは、検査画像から視認するのが難しい」ということなのです。

ですから検査画像を読撮(どくえい)する医師の経験値や判断によっても変わってくる部分になりますので、その為に「セカンド・オピニオン」といった、「複数の医師に診察を受け、最終的な判断・診断を受ける。」という事も必要になってくるわけです。

よく「病院の検査では骨や靭帯に異常は認められなかったということなんですが、どうも治りが悪いらしくて、まだ痛みがあるんですよね。」というご相談を頂くこともありますが、私は「検査で異常が見つからなくても、微小損傷によって生じている炎症がまだ神経を興奮させているんじゃないでしょうか。」とよくクライアントさんにお話しています。その微小損傷している部位が「どこなのか?」という一点を見極める為に、私は必ず理学テストを行って常に現状の判断するようにしています。

また治療を行う前の判断材料として以下のような事柄も含まれてきます。

痛みのある部位が筋肉・筋膜であれば、どこに力を入れたときに痛みがあるのか?
痛みのある部位が関節部であれば、どの角度にすると何処に痛みがあるのか?その痛みは安静時と運動時ではどのように痛みが変化するのか?
冷やした方が痛みが楽な方へ変化するのか?
温めた方が痛みが楽な方へ変化するのか?
外部刺激によって痛みがどのように変化するのか?

なぜこれらの事柄を大切にしなければならないのか・・・。

それは治療によってケガをした患部がどの程度回復をみせるのか?、若しくは全く治らない可能性もあるのか?といったことを判断していくためなのです。

もしどのような対応・治療を行っても「完治に結びつかない場合」は、「組織が元に戻らない=壊れてしまった状態」ということになります。壊れている組織を自然治癒力で元に戻せなければ、手術をしなければならない・・・ということになりますが、実際には手術を行って壊れた組織を元に戻せるかどうかというのは、現在の西洋医学にも限界がある・・ということになります。手術方法が確立されていなければ、結局 「治せない」ということになるからです。また投薬(お薬)によって一時的に痛みを抑制できたとしても、壊れた組織が完全に元へと戻せなければ、最終的には完全に痛みがひくことはないでしょう。

プロ野球のピッチャーが晩年に肩や肘などを傷めて、手術を行ったりして現場に復帰しているのを皆さんもよくご存知だと思いますが、「年齢的な限界=回復力の限界=自然治癒力の限界」があるので、同じ程度のケガによってオペ(手術)を行ったとしても、若い人と年を経ている人とでは、その成功率にも差が出てくることになります。

それと同じように同じようなケガの程度であっても、早い回復を見せる人もいれば、なかなか完治に結びつかない人がいますが、だからこそ「どの組織を傷めているのか」「治る確率はどの程度なのか?」「もし自然治癒力によって完治に結びつかない場合、手術の方法は残されているのか?」「年齢的な限界は無いのか?」「スポーツの特性によっては、オペを受けた後に完全復帰できる確率はどの程度なのか?」といった事を事前に考えておかなければならないのです。

ご相談をお受けしたAさんのように、「足の甲を打撲して痛みがなかなかひかない」というのも、それと同じで、まず「どこの組織を傷めているのか?」また「回復力はどの程度なのか?」「治療効果はどの程度出てくるのか?」という事を事前に考えてから、その後の治療にあたらなければならないことは言うまでもありません。

これは私がファイターズの専属トレーナーとして体験してきた多くの捻挫痛や打撲痛への対応の中で感じてきた、「あるケース」なんですが、たとえば「デッドボール(死球)」が太ももの前側(大腿四頭筋部)に当たった選手がいて、その選手が「先生、ボールが当たった場所はぜんぜん痛くないんだけど、どうも膝の外側が痛くてしょうがないんですよね・・・。どうしてですかね?」と質問をされて、一晩中 それについて考えていたことがあったのです。

「なんで打撲した場所には痛みが無いのに、膝に痛みがあるんだろうなぁ・・・。」

まだトレーナーとして経験の浅かった私はそれが不思議で仕方がなかったのですが、その後にも同じようなケースのデッドボールによる打撲痛を訴えていた選手が出現して、「何故そのような現象が起こるのかがよく理解できる」ようになったのです。

太ももの前に打撲を起せば、当然 その部位・・・つまり「筋肉」には直接的に炎症が起こります。そして筋肉に炎症が起これば当然、「筋肉自体に緊張がおこります」、筋肉が緊張をおこせば、その筋肉の両端にある腱にも当然テンションがかかりますから、その腱の付着(くっついている軟骨や骨部)部にもストレスが生じることになります。

筋肉というのは関節付近に付着しているので、上記のような打撲のケースでは「二次的に関節へのストレスが生じていて、膝に痛みを自覚している」ということが理解出来るようになったわけです。

だから打撲・・・といっても、その当たってケガをした部位・場所以外にもストレスが生じていて、二次的な痛みが生じる可能性もあるし、それは当然と言えば当然なことだったのですが、その痛みのおこる機序(しくみ)さえ理解できれば、後はそれを基にして適切な施療を行っていくことでケガの回復はそれだけ早くなります。

今回、ご相談のあったAさんの打撲は「足の甲」ということですが、実際には足の甲には二つの大きな関節部があって、それは「ショパール関節」と「リスフラン関節」という関節になります。

そして関節部には必ず「靭帯」がありますから、この「靭帯部を微小損傷している可能性」も疑われますし、「もし靭帯部を痛めていなかったとしても、骨挫傷といってレントゲン像では視認できない不全骨折」があったことも当然疑われます。また稀にですが外傷性の神経腫なども疑われることがあります。

また足の指と指の間には「指間筋」といったような「小さい筋肉」もありますし、「足の指の伸筋腱」もあるので、それらの「どの部位に痛みがあるのか、若しくは炎症が残存しているのか?」という事が認知できないと、正確な治療を行う事が出来ません。理学テストはその為に行うわけです。

靭帯や骨を損傷していたとしても病院の検査結果では「判断出来ないケースもある」・・・ということで、これがいわゆる医療の世界や私達スポーツトレーナーの世界で共通言語として使われている「グレー・ゾーン」ということになってきます。

医療の世界・・・西洋医療の診断というのは、ある面においては「消去法」といって、可能性のあるものを検査・検証しながら、その可能性の低いものを消していきながら最終的に残った「一番確率の高い傷病」によって判断・診断を下し治療を行っています。

もし病院の検査で何の診断も出てこない場合には「ただの打撲ですから安静にしておいてください」と言われることが多いと思うのですが、グレー・ゾーンであると仮定した場合であれば、「組織の微小損傷」や「外傷性によって生じている病変」であるとか、若しくは「機能的な問題がある」ということも疑われるわけで、Aさんのような打撲のケースでは、それらを検証しながら一番治る確率の高い治療を行っていく必要性がある・・・ということになってきます。

その中には「鍼治療」もあるし「マッサージや温熱療法」また「電気療法」を当然含まれてきますが、もし足の甲にある「関節付随組織」に異常があって、そこが壊れている場合には、やはりそれなりの時間がかかるか、もしくは「物理療法以外の方法」を選択しなければならない・・・そういうケースも想定しなければなりません。

いずれにしてもケガの原因がただの打撲や捻挫・・・といっても、「様々な身体各部位における組織破壊がある」ということや「二次的なストレスによる痛みがある=関連痛」といったことを踏まえるならば、スポーツや日常に起こるケガを「軽視してはならない」ということであり、初期対応を含めて、最も治癒確率の高い処置や治療を行っていく必要性がある・・・ということになります。

ケガを軽視して痛みが長期に長引けば「炎症が慢性化して痛みがなかなか引かない状態になる」からです。その一点を忘れないことが大切ですね。

今日はご相談内容から、打撲や捻挫に関するお話しをさせて頂きました。(by 院長)