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野球で肩を痛めてしまう根本原因と改善法・対処法(1)

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今日はベースボールで不幸にも肩関節を痛めてしまった多くのアマチュア野球選手達を診てきたなかで、日頃から彼らが痛めてしまった肩関節だけで無く、体全般を触診したり見てきた上から、気がついたことや、彼らが一体どのような手法でコンディショニングを行ってきたのか?という部分を見聞きした上で少し気になっている点についてお話ししてみたいと思います。

【ケース1】

治療を求めてきた際に、「投球で肩を痛めてしまった」と本人から説明を受けるのだが、施療を行っていくなかで、「実はスイング練習のやり過ぎで肩関節に異常が起きてきたのではないだろうか?」といった疑問が生じたケースがある。

これは特に高校球児や大学生選手の「野手」に多く観られた現象。上半身全般の筋疲労度からも言えることだが、スイング練習を毎日1日辺り500~1000本スイング続けてきたという選手達の中に多く観察される。

初期治療開始時に肩関節の状態として一番多かったのは、「肩・アウターマッスル」や「広背筋」、肩甲骨周囲にある「大菱形筋」「僧帽筋」、また上半身前面の「大胸筋」などに極度の筋緊張状態が持続していて、「肩甲骨運動」がかなり抑制されており、このような状態でスローイングを行っていれば腕の挙上動作に支障が出てくるので、いわゆる「肘下がりの投球フォーム」に陥りやすい。

当然、そのようなスローイングを継続していくと、回旋腱板筋(肩・インナーマッスル)にも負担が及び、「腱板炎症状」がまず誘発されてくる為、「強い投球=スピードのあるボール」が出来なくなってしまう。

肩関節の伸展、屈曲、水平内転可動域が極度に狭くなっている選手は特に投球の際に支障が出てくる可能性もあるので要注意。

これらのような状態であれば、特に上半身全般の筋柔軟性の回復が必要であり、何故なら上体の回旋動作というのは胸椎部における可動量が多い為、そこを阻害されてしまうと肩甲帯の運動にも悪影響を及ぼしていく。だから時間軸でいけば肩関節の動きに支障が出てくるということになる。

上半身を大きく分ければ、体の後面と前面になる。体の後面で一番大きな筋肉は広背筋、前面で大きな筋肉は大胸筋、いずれもバットスイングで使われる筋群であり、初めは肩関節周囲の筋肉に異常が無くとも、それら上半身の筋群が疲労を蓄積してしまえば緊張を強めながら上体の捻り運動に制限が出てくる。その上でいずれ肩甲帯の運動や可動性にも影響を及ぼすということ。

このようなケースの肩関節痛を改善する為には、上半身全般の筋柔軟性確保と、肩甲骨運動の正常化が必須であり、肩関節可動域のみ正常に戻っても、再び肩関節痛を再発させてしまうことが多くなる。ここが一番重要な部分。

どこで治療を受けても肩が治らない・・と不満を訴えてきた学生選手の中には、そういったケースの上で「適切な治療」を受けていなかった選手達も存在しているが、同一の多くの連続動作によって筋疲労が蓄積してくれば無意識的に「筋活動を休止させてしまう」のは明らか。

試しに腕立て伏せをその場でずっと続けてみれば理解できるだろう。そのうち腕の筋肉が動かなくなってきて体を起こせなくなる。

「量より質」が理に叶っているというのは、無意識的な筋活動の休止が起これば、必ず「代償性運動」が起こるからで、それは要するに代償性運動=無駄な動きになるということ。

連続動作を長い時間続ければ、力が抜け自然な形が出来る・・・という論もあるが、「代償性運動=無駄な動き」が起こっていれば正反対の論となる。正しい形が継続出来なければ運動の大半が無駄になっていく。

代償性運動によるスイング練習は続けられても、それによって肩を痛めてしまえば投球がきちんと出来なくなる。野球選手は投げる、打つどちらもプレーしなければならいスポーツ。

投げる際に肩が痛いといった場合、それがスローイング練習だけで起きているとは限らない。スイング練習が起因となってしまうケースもある。

【ケース2】

まず「ルーズショルダー=肩関節の前方、後方、下方弛緩性」は、特に筋力の乏しい小学生低学年~高学年の少年選手の多くに認められる症状である。

彼らにどのような肩のコンディショニング法を身につけているのか?と尋ねてみると、一様に「何もしていません」という言葉が返ってきた。

また中学生選手、高校球児に同じようなルーズショルダーが認められ、上記のような質問を行ってみると、ほぼ皆が口を揃えて「チューブを引っ張っています。」という答えが返ってくる。

実際にどのような形態でチューブを引っ張っているのかを目の前で彼らに行って貰うと、それらの手法が「肩・アウターマッスルを刺激する手法」になっていることが非常に多い。

肩のコンディショニング方法の中には、まず「肩関節を安定化」させる為に「インナー・マッスルの強化」を行う必要がある。これはプロ野球選手達も日頃から行っているものだ。

チューブ(ゴム)というのは、支点から距離が近いほど張力が弱く、距離が遠くなるほど張力が強く働く原理となっている為、一様に「ゴムを強く引っぱれば肩がより強くなっていく」と勘違いしている選手達が非常に多かった。

小学生のお子さんから大学生選手まで、こういったチューブによる肩インナーマッスルのコンディショニング法を継続しているにも関わらず、肩関節に弛緩性が認められるということは、「やり方が間違っている」か、若しくは「きちんとインナーマッスルを刺激出ていない」か「負荷強度が強すぎるか弱すぎる」か「コンディショニングがきちんとプログラムされておらず、日々継続されていない」のどれかに当てはまるということになる。

また「肘下がりの投球フォーム」に陥っている小学生選手達の多くが、「肩甲骨」を上手に使うことが出来ないケースが多く見受けられるが、この場合、肩甲帯筋群の筋力が弱いことも一因かと察する。

特にこういったお子さん達が腕立て伏せなどを日常的にトレーニングの中で行っているような場合は、「大胸筋」の方が強く働きやすく、逆に肩甲骨が投球の際に固定されてしまうような悪いクセがついている可能性もある。

トレーニング方法、コンディショニング方法を正しく行っていれば、ルーズショルダーは未然に防止することも可能なので、各選手に対する適切な指導が必須。

「今までインナーマッスルを長期間にわたり続けてきたが、全く肩の状態が良くならない」と説明する社会人軟式野球選手達に、どのような手法で肩インナーマッスルを鍛えてきたのか?と目前で実際に行って貰うと、ほぼ全員が全くインナーマッスルを刺激出来ないような手法に陥っていることが多い。

手法が間違っていれば、インナーマッスルを強化出来ない。つまり全く効果が無くて当たり前。コンディショニング方法をもう一度改善していかなければルーズショルダーはいつになっても改善されない。

継続は力なりで、正しい手法で最低2ヶ月~3ヶ月継続すれば、草野球選手のように、週1回しか野球をやっていなくても、必ずルーズショルダーは改善される。

肩関節が不安定であれば、インピンジメント症候群、腱板炎や腱板損傷(特に刺上筋損傷)に陥る可能性が高く、慢性的な肩関節痛の一番の原因となっていく。

肩関節というのは、元々の構造が「不安定な状態に陥りやすい」ということ。

簡単な言葉で説明をすると、ドアを止めているネジが緩んでいれば、ドアを開けるときにギーギーと耳障りな音がするはず。そのような状態に陥っているのが、所謂「ルーズショルダー」

そして「ネジをきちんとドライバーで締めておく」のが「インナーマッスル強化」ということ。ネジを常にきちんと締めておけばドアを開けるときに嫌な音はしない。

その際にドライバーの先っぽが小さすぎても大きすぎても、きちんとネジは締められない。ちゃんとネジ穴の大きさが合ったドライバーでネジを回す必要がある。

特に筋力の乏しい小さなお子さんから小学校高学年、中学生までの成長段階の子供達の肩関節というのは、「ドアを止めているネジが緩みやすい」ということ。

同じく高校球児、大学生選手、社会人軟式野球選手の場合は、ドライバーの大きさや回す方向が適切でなければ効果が出せないということ。

昔、チューブのようなトレーニング用具が無かった当時、どんなもので肩のインナーマッスルを強化していたかというと、笑い話のようだが「輪ゴムを長く繋げ」行っていた。

今はスポーツ店に行けばチューブにも様々な強度・張力のものが多い。しかし「張力が強ければ強いほどインナーは鍛えにくくなる」ということ。

適切な負荷と腕の運動軌道が得られなければ、インナーマッスルはまず強化できない。ここがルーズショルダーを改善する一番大切な要点となる。

肩・インナーマッスルの強化というのは非常に地味なトレーニングだが、野球選手にとっては最上位に挙げておくべき強化。楽しくボールを投げ続ける為に。(by 院長)