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腰椎分離症と診断を受けたお子さんへの対応・考え方

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<腰椎分離症と診断を受けたお子さんへの対応・考え方>

まずはじめに、成長期のお子さん達がスポーツ活動やその他の諸原因によって腰部の慢性痛を抱えてしまい、その後に整形外科などを受診して「腰椎の疲労骨折、分離症と診断を受けた場合」の今後の対応方法や考え方についてお話してみたいと思います。



以下の内容は
親御さん達からご質問をお受けした際にお答えしている内容です。

Q:運動はすべてさせないほうが良いですか?(完全に休ませた方が良いか?)

A:腰や身体全体の状態によって対応を変えていきます。

Q:このまま腰の痛みを我慢して運動を継続するとどうなりますか?

A:将来的には腰椎分離症から腰椎すべり症へ移行する可能性も示唆されていますが、初期対応をしっかり把握し実行すれば酷い状態にはならないでしょう。

初期対応とは、つまり「まず日常生活レベルでの動作痛を消失させる」ことです。もし就寝時痛があるとか、授業中に椅子に座っているだけでも腰が痛むのであれば、まず運動を回避させて下さい。

Q:病院からは痛みがある程度治まるまでは、「腰のコルセットを装着して下さい。」と言われてますが、腰のコルセットをすれば多少の運動をさせても良いのでしょうか?

A:段階的には可能となりますが、ただコルセット装着を継続しているだけでは運動時の痛みを改善出来ないケースも実際にはあるでしょう。

腰や背中、腹筋などの体幹筋群の機能低下や股関節や下肢の筋機能低下を招いていれば、まずそれらを改善していかなければ、現在、腰に痛みが無くとも運動することで腰痛が再発していくケースも出てきます。

Q:腰椎分離症は再発することもありますか?

A:もちろんあります。

プロ野球選手の中には、成長期に腰椎分離症へと至ってしまったと考えられる選手が相当数存在していましたが、第5腰椎部だけではなく、第3腰椎部にも分離症を認めたケースがありましたし、左右の二箇所に認める場合も確認しています。

ただし「運動時の痛みが永続してきた」わけではありません。必ず腰痛は治りますし、成長期段階で繰り返された腰痛が永久に続くわけではありません。

Q:分離症を抱えてしまうと、将来的にはハードな運動やスポーツは出来なくなるのでしょうか?

A:そんなことはありません。

現に分離症を認めるプロ野球選手達でもハードな練習、運動強度の高い運動に適応出てきています。

ただし現在の腰や下肢の筋疲労度によっては、腰椎部に何も抱えていない選手達よりは、腰痛を「感じやすい」「違和感を訴える」などのような傾向があります。

しかし通常はその他の選手達となんら変わらない練習内容や量をこなせますし、いわゆる「分離症が致命的な障害とはならない。」とも言えるでしょう。

17年間プロ野球の世界に身を置き、多くの選手達を診て来ましたが、腰椎分離症を原因として引退へと追い込まれた選手はほぼ「皆無」でした。

Q:分離症になってしまう一番の原因は何ですか?

A:これは「成長期」に一番の要因があると思います。

通常、人間の背骨はある程度の重量に絶えられるように出来ています。体重の3倍から7倍程度の重量が背骨にかかったとしても、そう簡単に骨折するものではありません。

しかし金属疲労のように、もしそれが弱い力であっても、何度も何度も同じ重量や負荷が同じ部位にかかっていけば、そこに「耐久性の問題が絡んでくる。」ということではないでしょうか。

特に運動時の「ひねり動作」や「前後屈動作」がより多くなればなるほど、腰椎部に対する負荷は当然多くなりますから、そういった動作がより多いスポーツの場合には分離症発生のリスクが高まると言えるのではないかと思います。

特に成長期のお子さん達の場合には、まだ「背骨が未完成=完全に出来上がっていない」ことから、それらの要因も付加されることによって、より分離症を発生させてしまうのではないかと思います。

Q:どうすれば成長期の腰椎疲労骨折(分離症)を防ぐことが出来るのでしょうか?

A:先天的に分離症を起こしやすい体質の人がいる・・・とも言われておりますし、生まれながらにして分離している場合もあると言われますが、もしそうであるならば、きちんとした「比較検討」が行えるように、何らかの「事前検査」を予め設定して、医療機関等でそれが行えるようにするべきではないかと私は考えています。

その上で成長期のお子さん達には適切な運動方法を指導しながら、ただ運動をさせるだけでなく、筋疲労に対するケアの仕方やコンディショニング方法も同時に学ばせていくべきだと考えています。

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人間はロボットではありません。生身の身体で出来ています。

また人が感じる「痛み」には感情も同時に伴っているものです。

長年、私は腰痛を抱えておられる皆さんの治療を続けながら感じてきたことがあります。それはただ「身体的な構造を整えていく」だけでは痛みは消失しない・・・ということです。

人間の身体は厳密的に言わせて貰えば、完全左右対称には出来ていません。手の長さも若干違うし足の長さも違います。心臓は左側に肝臓は右側に位置しています。また姿勢が悪いから腰痛になると言う人もいますが、それでは高齢者で腰の曲がった人全てに腰痛が発生しているかと言えば、そうでは無いのです。

だから身体構造を全て正常に戻す・・・ということだけが、即ち腰痛を解消する術ではない・・・ということになります。それだけ人が感じている「痛み」というのは、複雑で様々な原因から出現しているということです。

腰が痛い・・・と言っても、それは自身の「脳や心で感じている」わけですから、そこにアプローチしていかなければ、どんな腰痛も改善させることはできません。その上で、私が実践してきた腰痛治療アプローチ法の中で、大切にしてきたのは、以下の4つです。

① 身体的な痛みを如何に改善するのか?
② 精神的な痛みを如何に改善するのか?
③ 運動レベルをどう改善するのか?
④ 腰痛に対する誤認識をどう改善するのか?


もし構造的な異常が腰部に現在あるとして、それらを手術で「仮に元に戻す」ことが可能だとしても、手術自体が侵襲的なものである以上、神経そのものや血管そのものを一時的にでも微細に傷つけていれば人間の持つ自然治癒力は低下していくのではないでしょうか。

現に、腰痛の諸原因とされている構造的な異常⇒<腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症>などを改善する為に行われてきた手術によって、一時的には腰痛が改善したように見えても、そこから年月を経てから再び腰痛を抱えてしまったり、別次元の痛み(下肢への酷い神経痛)を抱え悩んでいる人達が沢山存在するわけですから、いくら構造的な異常を改善したとしても「腰痛は無くならない可能性もある。」ということです。

ですから成長期に腰椎分離症へと至ってしまわない為には、上記に掲げたような総合的な観点からケアや治療方法を導き出し、普段からの運動方法を改善する必要があるとも言えますが、腰椎分離症を抱えてしまったからといって、ただ悲観ばかりする必要はありません。腰痛の多くは一部を除いて治ります。

悪性腫瘍、糖尿病など内科的疾患が潜んでいる場合には、慢性腰痛を同時に抱えておられる患者さんは多いものです。そういった身体内部の異常が腰痛を引き起こしているケースでは、「腰痛が消失しにくい」と言えますが、それ以外の原因であれば、必ず「腰痛は治る」と言えるのではないかと思います。

今日は何度かお電話でご質問を頂きましたので、成長期の腰椎の疲労骨折(分離症)に関して少しお話しをしてみました。(by 院長)