スポーツによる肩関節障害&野球肩<器質性障害と機能性障害>
野球肩及び肩関節スポーツ障害の中で【器質性障害】というのは簡単に言ってしまえば、筋肉を傷めていたり、腱や靭帯が切れていたり、骨や軟骨に損傷がある・・・ということです。
こういった器質的障害が疑われたケースでは、初めて受診し診断を受ける為の病院(医療機関)の選択は最も大切な局面になります。特に整形外科医の中でも「スポーツ整形外科医師」を受診するようにして、その際にも病院の設備面で「MRI」など精密検査機器があるかないか?を確認しておけば、何度も受診に赴かなくとも、損傷部位を早期に判断できるということは、一番の利点ですが、その後の選手への静養のさせ方やリハビリに関する大切な判断や対応においても正確な診断は絶対に欠かせないものとなります。
西洋医学では、まず画像検査があって、その画像からの診断によって詳細な関節障害の情報が得られます。ですから当然必要な検査機器が揃っていなければ確実な診断が出ないこともありえますし、その画像から診断(判断)するためには医師個人の肩関節障害に関する臨床経験値というものも非常に大切な要素となってくるのではないかと思います。
これは外科医の先生も内科医の医師も同じですが、各医師には「専門分野」というものがあります。
たとえば整形外科の先生でお話すれば、「脊柱(背骨)専門の先生」もいらっしゃれば、「股関節、膝関節専門の先生」や「上肢(肩や肘や手首など)専門の先生」といった、専門分野を担われているので、それぞれの先生によってそれぞれが得意分野が分かれている・・ということになります。
ですから、肩や肘、または手首や手などを痛めて病院を受診される場合には、「上肢専門のドクター」若しくは「スポーツ障害肩、スポーツ障害肘の専門医」をまず探して受診する方がより確実に正確な診断・判断をして頂ける可能性は高いと言えるのではないかと思います。
スポーツで肩関節を痛めて、肩関節そのものに器質な障害があるのか?ないのか?といった情報を得ていくためには、上記のような観点をまず考慮して問題をクリアしていく必要もあるわけです。
次に【機能性障害】とは、筋力の低下、肩関節周囲の筋疲労から起こる筋出力の低下、それから全身的な面から言うと、下半身(膝関節や股関節など)のパワー不足、体幹筋(腹筋、背筋など)のパワー不足、それから上半身の各関節の柔軟性不足などによって「肩関節」を投球時などに上手く動かす(働かせる)ことが出来ない・・・という「各関節の連動性」や「下半身・体幹、そして上半身の連動性」に問題があるといった、体全体の影響を含んだ形態の肩関節障害である・・・ということになります。
この中にはもちろん、「インナーマッスルの機能低下」も含まれてきますが、もしインナーマッスルの機能に問題が全く認められなくとも、その次には一般的に多い問題である「投げすぎ」や「肩の疲労、全身的な疲労」の問題も残されている可能性があります。
またインナーマッスルの弱化が肩関節の痛みの誘発原因であるとしても、ローテーターカフ運動を毎日しっかりと行っていけば、肩の持久力も徐々に上ってくるはずですが、しかし日常的に肩のコンディショニングを普段から行っていたとしても、肩の疲労そのものが全身疲労の一部分だとすれば、やはりただ肩だけを休めたりケアを行っていても『問題が解決されないケースもある』ということなのです。
ですからプロ野球の世界でトレーナーが選手たちに対して普段から行っているスポーツ・マッサージ・・・というものも全身的なコンディション調整に関する有意義な一つの方法論であるとも言えるでしょう。プロ野球界に多くのトレーナーが存在してきた理由とは、そういった疲労を伴った肩や肘をそのままにしておくと、「肩や肘の関節に故障を来たしてしまう」という現実があったからこそ、その必要性によって専属トレーナーを徐々に増やしていきながら選手の故障を未然に防げるような体制を整えていった部分も少なからずあります。
またその後にコンディショニングやトレーニングというものの科学的根拠に基づいた方法論を取り入れながら、技術指導者の我々に対する理解も同時に得られたからこそ、二重、三重で故障予防策を立てて現在のようなプロ野球の世界が構築されてきたのではないかと感じてきましたし、近年では栄養学・食育を取り入れた形で「健康保全と故障の予防」にまで、その指導管理体制を充実させているわけです。
筋力というのは鍛錬すれば確かに強くなりますが、疲労を起こしている肩関節に対して負荷(強化)ばかりをかけてしまえば、将来的な意味では強化に値する可能性もありますが、現時点においての疼痛緩和には直接的には結びつかないケースもある・・ということを頭に入れておく必要もあるでしょう。
野球選手達は日頃の練習の中で多くの投球や打撃練習を繰り返しており、そういった練習によって全身的な筋疲労の蓄積が過剰になっている場合があります。特に学生球児達の中にもそのような徴候があるので、やはりその上からも選手達の故障を如何にして防いでいくのか?ということは現場でも色々な考え方で指導を行っているのではないかと思います。
肩関節というのは周囲の筋肉に守られ保護されておりますが、日々の練習から培われていくものもあれば、その反対に失われていくものもある・・・という事が言えるでしょう。
まずその一つが「筋肉や関節の柔軟性」です。
この柔軟性という簡略化された言葉の中には「肩関節の関節可動域(ROM)→腕の動く範囲」と「筋肉の柔軟性」の二つの意味が含まれてきます。
「肩関節が柔軟である」・・・というのは、実は元々生まれつき持っている遺伝的要素でもありますが、例えばダルビッシュのように腕がムチを打つような投球が出来るのも、生まれ持った「肩関節の優れた柔軟性がある」ことによるものだと考えられるからです。
ファイターズの大谷選手、ライオンズの菊池投手も実は優れた肩関節の柔軟性をもっているわけですが、これらはまず遺伝的に獲得している・・・つまり生まれ持った体質として考えられるわけです。
もちろん投手の中にも肩関節のやや硬い選手は存在していますが、全体的に見ても投手達の肩関節の可動範囲は野手に勝っているものですし、もし投手の肩関節に柔軟性がなければ、あれだけの投球数やスピード・ボールは投げられないのではないかと考えます。しかしその反対にあまりにも肩の柔軟性が過度であれば、投球でもバッティングでもそれが弊害となる可能性も出てきます。
肩関節というのはスローイング動作の中においてはまず柔軟性が優れており強いボールを投げることに対して更に耐性があれば「強くしなやかである」ということになります。またバッティング(スイング)動作の中において肩関節の柔軟性と固定性が更に優れていれば「強くしっかりしており、しなやかである」ということになってくるでしょう。
そういった固定性と柔軟性の両側面のコンディションが個人個人の選手にとって適切な状態であれば、「野球肩には成りにくい」という面を強調すれば、こういった説明になるわけです。
この固定性と柔軟性という二つの要素がバランスよく保たれていれば、野球のようにボールを投げたり、バットを振ったり、ボールをキャッチしたりする動作の中では「好都合であり、故障を未然に防げる状態にある」ということになってきます。
しかしまず成長期にあるお子さん達がこのような状態に導かれていく為には、体がある程度大人の体格に近づいていく必要性もあります。
そういう面からすれば、高校生の時期というのは一番大切な岐路に立っている・・・ということになりますが、この時期に肩や肘を酷使し過ぎて将来的な野球活動への支障とならないためには、まず各野球協会によって、特に投手に対する『投球数制限に関するガイドライン作り(規定)』が挙げられるでしょう。
現時点において各野球協会による投球数に関するガイドラインは徐々に作成され定義されてきておりますが、それらに準じて、少年野球チームにおける指導の際には「正しいスローイング・フォームの指導をまず徹底して行うこと」及び「練習内における投球数の管理」も並行して行っていきながら、成長期における少年達への肩や肘に関する障害予防をまず大前提として指導者層における障害やトレーニングに関する勉強会・講習会などを各野球協会が主体となって実施していくことが望ましいのではないかと思います。
野球肩や野球肘というスポーツ障害の元を正せば、「悪い投球フォームの継続」と「過度の投球数」によるものがその原因の大半ですが、もう一つは指導者におけるトレーニング法・コンディショニング法やその他の練習内容に関して何らかの不備があるとも考えられます。もちろん成長期段階におけるお子さん達の身体的な発達状況や遺伝的な要素にも要因があると言われておりますが、それらの事をもう一度深く見つめながら、野球肩や野球肘を未然に防ぐことへの重要な課題といったものを今後も皆様と共に考えていきたいと思っています。(by 院長)