スポーツによる肩関節障害&野球肩 <種類と判断・対応・処置>
今日は「スポーツにおける肩関節障害」に関して、まずは一通り書き記しておこうと思います。
肩関節というのは非常に複雑な構造をしているので、多岐にわたる障害が認められています。特に野球のスローイングに関わらず、あらゆるスポーツ選手に肩関節障害は見られますが、肩関節スポーツ障害の一番厄介な点は、日常的にそれほど困ることがないとしても、特定のスポーツ動作の中では確実に痛みが誘発されてしまう・・・ということではないかと思います。
またスポーツをプレーしながら肩を痛めたあとに、医療機関(整形外科など)を受診し治療を継続しても、完全復帰出来る場合とそうでは無いケースもあって、それは治療(投薬・注射・手術・理学療法)による対応だけでは不十分で、完全に傷めた肩関節の状態を回復させられない・・・というケースもなかには含まれてくるからではないかと思います。
実際にプロ野球の世界で私が感じたことは、特に関節障害の中でも野球肩(肩関節障害)の発生率が非常に高かったということですが、これはもちろんスローイングやバッティング、それからスライディング時や守備の際の転倒など選手達が肩を痛めてしまう多くの要因が野球というスポーツ自体にあったからに他なりませんし、肩関節の構造自体が複雑かつ様々な機構によって維持されているから・・・根本的にはそういうことだと思います。
肩を痛めて対応する際、まずその肩関節に関する障害の種類、また各種対応方法を理解しておく必要があります。そして自分自身で可能な対応は自らが行っていくという事も大切でしょう。もちろん各種肩関節障害を回復させられるだけの休息期間も当然ですが大切な要素に入ってきます。
横浜・多宝堂治療院でも肩関節スポーツ障害に関する施療を沢山行ってきました。プロ・スポーツ選手・アマチュア学生選手、少年期の選手では、発生機序にやや違いも感じてきましたが根本的な肩関節障害におけるタイプに大きな違いがあるわけではないようでした。
ただし少年期(成長期)と成人期では、障害程度に違いが見られたり、気をつけていく部分に差異がありますので、それは他のブログ記事で触れています。
それでは一般の方が読んでも、多少の理解と認識を得られる程度に記してありますが、こういった「肩関節の障害がある」ということだけでも、まず頭の中にとどめていただきながら、その後の道筋をご自身でも判断できるようにヒントを交え書いてみたいと思います。
これらの情報を得たとしても、確実に肩の障害を完治させられない場合も出てくるに違いありませんが、それは完全治癒の道筋の中で「何か足りないものがある」ということになってきます。
ここは一番重要な点になりますが、そのポイントを押さえた状況の中で医療機関による治療、または経過観察、そして我々が普段から日々行っている施療等も含めた形でアプローチをしていくことで解決する場合も多いようです。
もっとも数週間、肩を完全に休ませて治ってしまうような障害であれば、それほど心配はないと思いますが、まず肩に痛みが出てから1~2週間程度は肩を休めてみてください。筋肉・関節の軽い炎症程度であれば、休息とアイシング(肩を氷などで冷やす)、それからマッサージやハリ治療等で簡単に痛みが緩和していくはずです。しかしそれ以後も肩に痛みがあれば「軽い炎症だけでは無い可能性」もあります。
それ以前に、「腕が上に上がらない」または「腕を頭の上の方へ上げようとすると激痛がある」といった場合には、まず一度、医療機関(スポーツ整形外科の肩関節専門外来など)で診察・精密検査等を受けて下さい。
スポーツ整形外科でMRI検査がすぐに行えるのであれば、担当の医師にお願いをしてMRI検査を受けてみてください。器質的(筋肉や腱・靭帯・骨など)な異常があれば必ずMRI画像上に異常が認められます。精密検査等の必要性も含めて、スポーツ整形外科の肩関節専門外来を受診した方がやはり専門性にも優れており、確実な診断が出ますし、適切な対応を受けることが可能になる・・・ということです。
またレントゲン検査で診断が出ないようなケースであっても、その後に経過を1、2週間程度安静にしてから肩の痛みを誘発するスポーツ動作を行って、再び確認してみる・・・という経過観察は大切になってきます。痛みがあれば、それはまだ完治とは言えません。
そこでもまだ痛みがあって、その後に精密検等を受けても器質的な異常(筋肉や靭帯、軟骨などに異常が認められない)が無いようなケースの障害であれば、「機能的な問題」が根底にあるということも考えてみる必要性があります。
「野球で肩を痛めてしまう根本原因と改善法・対処法」や「スポーツによる肩関節障害&野球肩/器質性障害と機能性障害」では、その辺について実例をもとにお話をしております。
また「野球肩障害のご相談と大切なこと」では、肩関節障害におけるエピソードを、「少年期の投球における肩関節障害の予防と投球肩の大切な要素」では、おもに少年期のお子さん達に関する重要なテーマの中からお話をさせていただきました。
横浜・多宝堂治療院では完治に至るまでの施療、機能回復訓練、日常的なコンディショニング法など、プロ野球選手達の治療経過の中から導き出してきたノウハウを用いながら現在の症状や障害、また年代に合わせて対応していきます。
1.肩の痛みの原因が判らない
2.病院で検査して貰っても何も診断がつかない
3.病院などでリハビリへ通っても肩の痛みがなかなか良くならない
4.治すためのハウツウ情報を見たが対応法がよく解らないので正しく対応できない
実はこういった方々もいらっしゃるようですので。そのようなクライアントさんをまず理解した上で、完全治癒への対応を行って参ります。是非一度ご相談下さい。(by 院長)
それでは今回は一般的に「野球肩」と呼ばれているスポーツ障害に関して、様々なタイプから症状を認識しながら、野球に即した各肩関節障害への考え方や判断・対応について簡略化してお話してみたいと思います。
上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきん・ちょうとう・けんえん)
間違った方法によるウエイト・トレーニング、それからバッティング練習の片手打ちの反復練習過多など、主に上腕二頭筋に対する過負荷や急激なストレス、疲労からも多く発生しています。
バーベルを体の前側で持ち上げようとすると「肩の前方部」に痛みが誘発されます。投球加速期に痛みが誘発されやすい障害です。
局所の安静と上腕二頭筋全般の緊張をまず取り除いて筋柔軟性を回復させること。また肩甲帯を含め肩関節の可動性正常化を確保していきます。
インピンジメント症候群(いんぴんじめんと・しょうこうぐん)
一般的には「ルーズショルダー」といって肩関節の不安定性から生じることの多い障害です。
成長期のお子さんの大半がインピンジメント症候群によるものだと考えます。
スローイングの際に肩関節の中が「引っかかるような感じがする」とか、「何かが挟まっている感じがする」とか「ゴリっ」と音がする・・といった感覚がある場合にはインピンジメントが生じている可能性が高いと思います。
肩関節可動性の正常化、インナーマッスル強化、その他、体幹強化や股関節の柔軟性に関してもアプローチしていく必要性があります。大きく見れば投球フォームの改善も必要になる場合が多いと思います。
肩関節周囲を含めた上半身の筋全般の柔軟性を施療によって得ていきながら、上記の訓練を行っていくことになります。また炎症性疼痛が酷い場合には、まずハリ治療で痛みを緩和させていきます。
腱板損傷(けんばん・そんしょう)
肩関節の安定化に欠かせないインナーマッスル(肩腱板筋→棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)を傷めてしまう障害です。投げすぎ、間違った投球フォームで起こる確率は高くなります。
腕の挙上困難(腕を頭の上のほうまで上げられない状態)が認められる場合には、腱板断裂も視野に入れておく必要があります。炎症程度であれば「腱板炎」、軽度の損傷があれば「腱板損傷」、腱板筋に断裂があれば「腱板断裂」ということになりますが、これらの障害程度によって回復期に違いが生じます。状況に応じてスポーツ整形外科・肩関節外来等を受診して精査を行って貰いましょう。
腱板炎から軽度損傷の段階であれば、鍼灸スポーツマッサージによって治癒期間を早めることも可能です。まずはインナー機能等を含めた、回復訓練を同時に行っていきます。
肩峰下滑液包炎(けんぽうか・かつえきほうえん)
肩の関節の動きがスムーズに動くために「滑液包」という部位から「滑液」が出てきますが、この「滑液包」という場所に炎症が起こってしまう障害です。
野球などによるスローイング動作やバレーボールなどのスパイク動作、それから水泳のクロール動作やバタフライ動作などのように、腕を大きく回す動作によって炎症が生じるようになるのですが、一番の原因としては肩甲骨運動が抑制されてしまった後に、肩関節の動きが悪くなっているにも関わらず、こういったスローイング動作やスイム動作、スパイク動作を継続していると発生しやすくなります。
腕を真横に上げていくと痛みが強くなります。進行した状態では、肩を動かすのが困難になります。まず安静が必要です。安静時の炎症性疼痛が緩和するまでに1週間~数週間以上持続するケースもありますが、受傷数日後から鍼治療を行えば炎症性疼痛に伴う筋拘縮を防ぎながら安静時の痛みも割りと早期に緩和してくると言えます。
ただし重症化している場合は外科的手術が必要なケースもありますので、疼痛が持続し関節が動かせない期間が長くなっているのであれば、スポーツ整形外科の肩関節外来等を受診・精査を受け、専門的な治療を受けた方が良いケースもあります。
棘上筋腱炎(きょくじょうきん・けんえん)
一番多いのはインピンジメント症候群に陥っている状態で、そのまま無理をしていると肩のインナーマッスルのうちの「棘上筋」という場所に負担が起こり炎症を起こしていきます。
またスローイング動作ではこの「棘上筋」を損傷してしまう場合が多いのですが、腕を上げようとすると「抜けるような痛み」が誘発されます。
まず安静、アイシング、腕を上げる動作は痛みが引いてくるまで行わないことです。2,3週間の経過を見れば通常は改善していきますが、インナー強化も並行して行う必要があります。
投げすぎなどの要因があった場合には、特にスポーツマッサージで肩を含めた身体全般の疲労を取り除いていくと肩の回復が早くなります。また炎症性の疼痛に対してはハリ治療を行っていくことでほぼ緩和していきます。
肩甲上神経・障害(けんこうじょうしんけい・しょうがい)
肩関節周囲の筋肉が硬くなってしまったり、ガングリオン(脂肪腫)などによって、肩甲上神経に圧迫が加わり、肩周辺部の痛みを誘発します。また進行すると麻痺症状に陥り腕の挙上が困難になることもあります。
ガングリオンが原因であれば内視鏡で除去すれば痛みは緩和するでしょう。
筋肉の緊張により神経圧迫が生じている様子であれば、スポーツマッサージやハリを行うことで改善していきます。肩甲骨の動きが正常であるかどうかをまず確認してみましょう。また頚部から肩にかけての「筋肉のシコリ(硬結)」があれば、一度その状態を緩和させていきます。
上腕骨骨端線障害(じょうわんこつ・こったんせん・しょうがい)
少年期でまだ全身的な筋力不足があるにも関わらず、重たい硬式ボールを投げ過ぎたり、ピッチングの多投や変化球の練習のさいに無理な腕の振りで投球していると発生しやすくなります。
成長期では軟骨部が未成熟である為(まだ柔らかく完全な骨組織として完成されていないため、まだ全身的な筋力が伴っていない状態でボールを投げているだけで関節の軟骨部へとストレスがかかり傷めてしまう・・・そのような。成長期特有の肩関節障害です。
まず安静(絶対に投げさせない)にし肩周囲の筋疲労を取り除きながら、炎症が引いてきたら運動療法を行って筋力を回復させていきます。最終的には投球フォームの矯正が必要になるケースが多いでしょう。
まず初期の段階でスポーツ整形外科・肩関節専門外来のスポーツ・ドクターに診察を受け、関節面(軟骨部の状態)の精査を受けてドクターに確認して貰いましょう。正しい治療・処置を受けることで必ず治りますが、無理をしてしまうと肩関節の可動性に問題が生じ投球できなくなるケースもあります。初期診断時の判断が重要な障害です。
ベネット病変
割と投手に多い肩関節の障害です。腕の良く振れている投手のフォロースルーによるもの、それからテイクバックが割と大き目の選手などに認められていました。
少年期から継続されてきた投球フォームや体質的な問題(先天的なルーズショルダーなど)があるのではないかと私は感じていますが、この障害では関節面にある骨が変形を起こし、その変形した骨が肩を通っている神経を刺激して痛みを誘発させています。
症状が酷い場合には手術で変形した部分の骨を除去すれば痛みは消失します。保存的に経過を診ていきながら判断しても良いと思いますが、フォーム・機能的な問題がある場合は少し回復に時間を要するケースがあります。
SLAP損傷(すらっぷ・そんしょう)<肩関節窩上関節唇複合損傷>
肩関節の上方部は関節唇(上腕骨頭の受け皿の部分)と上腕二頭筋長頭腱起始部の複合体(BLC)が力学的なストレスを受けて剥離(剥がれてしまうこと)してしまう障害です。
帰塁時のヘッドスライディングで腕をベースに伸ばして倒れこむと発生するケースも多く、その際に肩関節に衝撃痛を感じたら要注意です。(プロ球団の中にはこういった障害を未然に防いでいくためにヘッドスライディングを禁止していたところもあります。)
悪いフォーム・投球過多(投げすぎ)でも発生する障害です。
右投げ左打ちの選手にも割りと発生しやすく、少年期からずっと投手でプレーしてきた選手(投球数が野手よりも多くなるために)も発生する確率が高いかもしれません。
発生してしまったらまず安静にして、その後は強化を行いながら肩甲骨を含めた肩関節可動域の正常範囲の確保と肩関節周囲筋の筋柔軟性を高めていく必要もあります。
2ヶ月から3ヶ月程度のリハビリや保存療法を行っても投球時の肩の痛みが改善していかなければ、外科的手術によって剥がれた部分を修復する選択肢もあります。
しかし手術を行って完全復帰できた選手もいれば、その後に力を出し切れず、結果的に完全復帰出来なかった選手もおりますので、保存療法をまず行いながら投球動作の改善に取り組んでいくという選択肢を選んでみて、その後に判断しても良いのではないかと思います。(注:障害のグレードにもよりますし、最終的にはドクターの判断にもよります。)
スポーツ整形外科・肩関節専門外来における精密検査の結果による初期診断がとても重要な関節障害です。
反復性(亜)脱臼肩(はんぷくせい・あだっきゅう・かた)
先天的に肩関節に緩みをもっていて、通常の外転ストレスがかかった程度でも肩関節に亜脱臼が起こりやすいタイプの選手が少数ですが存在しています。
亜脱臼が何度も繰り返される場合には外科手術により肩関節の安定化をはかりますが、手術後の投球再開までのリハビリに長い期間を要します。また手術方法によっては投球が困難になるケースも考えられます。
投手の場合にはポジションの変更が必要になる可能性もあるでしょう。投球側が右肩であれば、その後に手術を受けた場合、右投げ左打ちの選手であれば右投げ右打ちに変更した方が、肩への負担は少なくて済むと考えます。
プロ野球投手の場合、元々肩関節そのものが柔軟性に富んでいるタイプの選手が多いのですが、そういった先天的な肩関節機能の優位性によってパフォーマンスが高くなる場合もありますが、その反対に肩関節の安定化そのものに問題が生じてしまうタイプの選手では、その後のプレーでハンディを抱えやすくなると言えるでしょう。
大切なのは身体全般の強化、また肩関節安定化に対するコンディショニングを継続していくことです。また筋疲労に対するリコンディショニングには十分注意していく必要があります。
(by 院長)