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少年期の投球における肩関節障害の予防と投球肩の大切な要素

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開業以来、地域の少年野球チームに所属している多くのお子さん達がここ横浜・多宝堂治療院に訪れてくれたわけですが、彼らの投球による肩関節障害に関する対応及び経過観察などについて、今日は少しお話しをしてみたいと思います。

それでは初めに野球少年達がどのような経緯でスローイングによる「肩痛」を自覚し、またその後の対応をどのように行ってきたのか?ということについてお話ししていきましょう。

まず野球にはさまざまなポジションがあります。「投手、捕手、内野手、外野手」・・・と、大きく分ければ4つのポジションとなりますが、試合時の投球数が多いポジションを順に挙げるとするならば、以下のような順番になるのではないかと思います。

「投手>捕手>内野手>外野手」

これら各ポジションのスローイング形態というのは、それぞれのポジションによって特性やパターンが変わってきます。ですからまずそれぞれのポジションに適合した形態による投球の練習方法習得が、まず必要になる・・・ということになります。

各ポジションの中で一番スローイング(投球)を沢山行っており、尚且つ、投球強度の最も高いポジションはどこになるかと言えば、やはり「投手」になります。

それに対し捕手は受けたボールを投手に返球しますから、投手より投球数は少なくなるものの、捕手は投手の次に「投球数の多いポジション」になるでしょう。

捕手の場合、ランナーに対する盗塁阻止の際の各塁送球などが試合中にはより多くなりますから、投手よりも長い距離に対する素早い投球も必要になってくる為、「強肩」が求められます。

投手というのはゲームの最終回までを完投すれば、1試合で平均約100球前後は投げることになります。だから投手の場合は捕手のような強肩では無く、投球に関するスピード&コントロールの総合的な調整力を重視した投球がより求められ、ただ単にスピードボールが投げられるだけではなく、より細かいボール・コントロールが行えなければ長期に亘って務めることはできません。

内野手のスローイングでは「ゴロを捕球してからの各塁送球」がありますから、「足を上手に使い体勢を整えながら素早くコントロールされた投球」を行うことが求められたり、打球(ゴロ)に飛びついた後に転んだ状態から起き上がって投球をしたり、ベースを踏んでから投球をしたり・・・といったSAQがより求められるポジションでもあります。

また外野手は内野手や捕手よりもより遠い(長い)距離に対する投球(遠投)を行いますから、「遠投力」といった他のポジションよりも強くて瞬発力のある投球が求められるポジションであり、それと同時に「足の速さ=守備範囲の広さ」といったものも求められるでしょう。

またフライやライナー性の打球の落下地点をあらかじめ予測しながら速やかに走って移動しながらキャッチ(捕球)をする・・・といったような「視覚から得られた情報を速やかに判断しながら動く」といった要素も求められます(これは内野手にも等しく求められる要素ですね)。



このようにポジションに求められる「要素」には違いがありますが、各ポジション別による「投球数」の違いの他にも、「投球強度」や「投球距離」などの要素に違いがあるので、どこのポジションが「投球による肩関節障害」を起す可能性が高いのか?というのは一概には言えないのです。

しかし外野手のように長い距離を投げる場面が多くなれば、肩のアウターマッスルに関する疲労が最も起こりやすく、肩に緩さ(ルーズ・ショルダ)が認められれば傷害頻度はより一層高まります。

またピッチャーのように近い距離をより多く投球するという状況があればインナーマッスルに負担が及びやすく、特にブレーキング・マッスルの疲労は一番初めに認められる初期の障害段階となるわけです。そこを通り越して更にそのまま投球を続けていくと更なる次の障害が待っている・・・ということになります。



少年野球のピッチャーの場合、大会などに入れば一日に二試合連続でマウンドに立つようなケースもあるようですし、そういった場合にはエース・ピッチャーで100球~160球前後の投球数になってしまう場合もあるようです。

ですから大会前後のエース投手の肩関節に対する管理は非常に大切になってくるし、投手の「投球数制限」に関するガイドラインは必ず設けていくべきではないかと考えています。

小学生と中学生とでは、やはり中学生の方が投球数も若干増える傾向にあるようですし、投球強度も中学生の方が当然強くなるわけですから、そこで判断できることもあるわけです。

それは身体的な面から言えば、小学生というのはまだ「身体が出来上がっていない=未熟」であり、中学生というのは「身体が出来上がりつつある=成熟途上」ということです。

その「成長期にある身体」と「完成された身体」の「違い」を読み解きながら、投球における肩関節の障害発生を「どのようにしていけば回避できるのか?」ということと、「観察力・洞察力」は同じことです。

指導者であれば、お子さん達がボールを投げている姿を見て、「これはどうもおかしいな・・・。」と感じたならば、まずそのお子さんに「声」をかけ「身体の調子・状態」を確認することは大切な行動です。

何故なら子供というのは身体的未成熟がある以上に精神的未成熟があるわけですから、「自分自身の身体の異常には無頓着であり、その痛みや違和感が重大な障害に陥る可能性も知識も無いに等しい。」ということです。

「肩や肘が痛くなったら隠さずに監督やコーチ、親に言いなさい。」とチーム方針で徹底していても、お子さん達の中には「痛いと言うとメンバーから外されるのが嫌だから黙っている。」場合が多々あるのです。

そこを見抜いていくのが、周囲の人間の責任ある真の役目ではないかと私は思っていますが、それらを判断する為に必要な「知識」を得ておくことも、当然「指導する人間」には求められるのです。



野球選手の肩関節障害を未然に防ぐ為には、肩関節の可動範囲の確認、肩関節の前後・上下の緩み具合の確認、肩関節周囲の筋柔軟性及びブレーキング・マッスルや各インナーマッスルの筋疲労度・炎症徴候、指先のマメの状態、前腕の回内・回外動作・柔軟性確認、手関節・指の状態の確認、フォームの異常&代償性の動きに関するチェック・・・等の項目がまず挙げられます。そして投手に対するこれらの各項目チェックは非常に重要なものとなりますし、これら一連の項目に対するトレーナーや指導者の「各選手に対する物差し」が無ければ「選手の肩の異常を事前に察知することはできない」・・・そういうことになってきます。

障害を予防する為には、こういった一連の項目に対する「正常な状態」をまず認識している必要があるのは、皆さんも理解できると思います。

もちろんこれらの点については投手に限らず、捕手や野手(内野手、外野手)の肩関節においても全く同じことなのですが、特に「投手に対して一番に注意を払っていく必要がある」・・・というのは、投球数がより多くなるポジションになるからです。
スローイング(投球)によって肩関節を傷めてしまう場合には、上記に挙げたような「各項目」の中のどれかに異常を来たしている場合がそのほとんどであり、それらを見過ごしている場合が多いのです。



次に・・
現場で選手が「肩に痛みや違和感がある」といった場合の、その後の対応や管理についてお話ししていきましょう。

まず「肩関節の前方部に痛みや違和感を自覚している場合」についてお話してみましょう。

肩の前方部に痛みを訴えるお子さんの特徴としては、やはり「アーム投法」のお子さんに多く、こういったケースでは「肘の内側」にも痛みや違和感を併発している事が多い様子でした。

アーム投法になっているお子さん達の多くが、投球加速期に肘が下がったフォーム形態になっていて、その為に「まず投球フォームの修正」から入っていかざるをえないのですが、身体が開いたままで腕のみを強く振って投げているようなお子さん達の場合には、特に肩の前方部にストレスを多くかけながら、前腕が回内してしまっていることも多く、肘の内側部にストレスをかけてしまっていた場合が多い様子でした。

肩の前方部に痛みのあるお子さん達の多くは、初期の肩関節痛だと認める場合には、「三角筋・前側部繊維に対するストレス痛」を多く認めたわけですが、その時点でフォームを改善していけば、投球の際に局所的なストレスを回避させることができるので、その後の投球障害発生の確率は軽減できると考えます。

投球障害肩の場合、痛みのある患部を速やかに治すことも大切ですが、「そこに至ってしまった真の原因=投球フォーム(投げ方)が起因なのか?、投球過多(投げすぎ)が起因なのか?、身体成熟度が起因なのか?、練習内容が起因なのか?その他に起因は無いのか?」ということも同時に併せ改善していかなければ、肩の痛みが現時点で解消出来たとしても、また「再発を繰り返す」ことも多いものです。

横浜・多宝堂治療院において、三角筋前部繊維痛に対する初期段階の治療では、鍼が最も効果を発揮しており、3回の施療で圧痛・運動痛の消失を確認しています。しかし肘の内側部にも痛み・違和感を併発している場合や小学校低学年で肩関節周囲の筋肉群がまだまだ未発達なお子さん達の障害ケースなどの際には、5回~7回程度の施療が必要になる場合もありました。

しかし最終的には完全復帰するのに2ヶ月を経ずにチームに合流しています。

いずれにしても癖のある投球フォームを続けてしまえば障害発生頻度が高まる事は自他共に認めるものであり、お子さん達が野球を始める初期段階で早期に正しいフォームの修得を成しえるならば、最悪の事態(上腕骨近位骨端線離開=リトルリーグ・ショルダー)などのような「骨折に近い障害」)は防げるのではないかと思います。まず少年期にアーム投法を我流で覚えてしまえば肩関節障害の発生頻度が高くなることは間違いない事実と言えるでしょう。



次に肩の外側部に痛みのあるお子さん達についてです。

この多くの原因が「かつぎ投げ」と言われている投球フォームになっているお子さん達に多いことが理解できます。

ちょうど柔道の背負い投げをイメージして貰えば良いのですが、必要以上に肘を高く上げ、そこから背負い投げのような腕の軌道で投げているお子さんを私は「かつぎ投げ」と呼んでいます。

専門的な言葉で言うと、このような投げ方は肩関節の内転・外転動作のみを強調した投球動作であり、「肩・三角筋」や「大胸筋」、「僧帽筋」「大菱形筋」に筋疲労がすぐに蓄積してしまいます。

肩関節というのは投球時には「外旋→内旋」運動をしていなければならないのに、かつぎ投げでは「外転→内転」運動を主体に行っているのですから、肩関節周囲のアウターマッスルは当然疲労を起しながら、インナーマッスルはあまり機能していかないので、肩関節周囲の筋バランスは当然崩れていくことになります。

また担ぎ投げの多くはテイクバックの際に肩甲骨の動きを一度止めており、そこから腕を肩に背負うような形から、いきなり投球加速期に入っていきますので、このような投球フォームは「肩の三角筋中部繊維及び僧帽筋」に余計な力が入りすぎてしまう為、その部位の筋疲労を早期に起しながら徐々に肩の痛みや違和感を誘発させていると考えます(障害初期段階)。

また捕手から投手にポジションを急に変更したようなケースでは、投球数や投球強度がより多く・強くなった為に、肩関節周囲を守っているインナー&アウター・マッスルのバランスが大きく崩れてしまい、強い投球が出来なくなっているにも関わらず、そのままピッチングを継続して肩関節周囲の炎症を悪化させているようなケースもお子さん達に見受けましたが、こういったケースの場合でもう一段酷い状態になると「滑液包炎」に至っていたケースも見受けられました。

肩をまず休めて施療を行っていれば酷くならずに済んだものが、現場でそれらを見過ごしてしまい、当事者も痛みや違和感を我慢しながら投球を続けてしまったが故に、肩の滑液包にまで炎症が拡大してしまい、「腕を上に上げようとしても力が抜けて入りにくい」「腕を横に少し動かしただけでも肩の外側や真上辺りに鈍痛がある」といったような自覚・状態が認められることもあったわけです。

このようなパターンの肩関節障害の場合には、継続的なアイシングや障害までに至った肩関節周囲の筋疲労をまず取り除くこと、そしてバランスを崩してしまった肩周囲の筋肉群の機能回復リハビリ等も同時に行わなければなりません。

また野手の投球法と投手の投球法の違いについて、お子さん達に認識させていく必要があると感じるのは、要は野手型の投球法だと、より多くの投球数を投げるには身体(肩)にも無理がある・・・と考えられます。

もちろん「強肩=スピードのあるボールが投げられる=投手向き」ではあるのですが、投球方法に関する身体の使い方の違いや肩関節等に対する日々のコンディショニングがしっかり継続出来なければ、「捕手や野手から投手へのポジション移動を急に行うのは肩関節・肘関節に無理が生じてしまうケースも出てくる」ということではないでしょうか。

またチームの方針(監督やコーチの考えで)によっては、オーバースローで投げていた投手のお子さんをアンダースロー等のフォームに変更を行っている途上において、肩や肘に障害を発生させてしまったようなケースもお見受けしてきましたが、このような指導を行う際には考えておかなければならないこともあるはずです。

プロの投手でさえ、投球フォームを変更する際には、それなりの時間が必要(1年以上の期間を要することもある)であり、お子さんへの短期間による投球フォームの大きな変更を指導しなければならない場合には、それ相当の時間をかけるべきではないかとまず考えます。

肩・肘関節に限らず、他の身体各部位における耐性強度も身体の使い方によっては当然変わってくるので、急激なフォーム変更は障害発生頻度を高める可能性がある・・・ということになります。



最後に投手達の投球スタイル(オーバースロー・スリークォーター・サイドスロー・アンダースロー)についてお話しておきたいと思います。

投手に向いている肩の構造、向いていない肩の構造・・・という面を考えてみた場合に、そのお子さんの腕の挙上範囲の「高い・低い」という観点から考えられることがまず一つと、肩関節の内旋・外旋可動域の広さ(大きさ)と緩み(締まり)具合の問題が二つ目にあります。

また肩甲骨の柔軟性(可動範囲)や上腕骨との連動性などがあって、これら一連の肩関節の運動要素の中で、どれか一つでも投手には向いていないと判断される場合には「その後のピッチング・パフォーマンスに弊害が出るのではないか?」という考え方が私の中にはあります。

一番良く感じる事は「この子の肩の要素からすれば、オーバースローで投げさせるよりも、サイドスローの方が楽に投げられるのになぁ。」といった感想を抱くケースや「この子の肩の要素からしたら、絶対に外野手よりもピッチャーやらせた方が伸びそうなのになぁ。」ということが多々あるからです。

これはプロ野球の世界で多くの選手達の各ポジション別による肩関節の運動要素を多く診ながら感じてきたような上記の点に関し判断出来得る事柄の中で、トレーナー時代にプロ野球選手達に直接助言してきたような内容と同じようにはいきませんが、現在ここにくるお子さん達の肩の運動要素を確認しつつ感じている「密かな私なりの考え方もある」ということになります。(by 院長)