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痛くて曲がらなくなる膝/マラソン・ランナーの下肢スポーツ障害

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今日は先日ご来院頂いた社会人男性マラソン・ランナーの下肢スポーツ障害の症例について少しお話してみたいと思います。

マラソン・ランナーの方々のなかには、日常におけるランニング練習やマラソン大会などで、いわゆる「下肢の筋肉の肉離れ、筋挫傷」をおこしてしまう方々も相当数いらっしゃると思います。

今回ご来院下さった男性Aさんは「ランニング練習」において「左足ふくらはぎの内側部=下腿三頭筋内側頭部」を昨年傷めてしまったとのことでしたが、患部が治ってからその後に、今度は「右足の膝裏部や膝関節にストレス痛」を発生させてしまったということでした。

ランニングや歩行というのは、「二本の下肢」で行っているので、片方の足の障害が発生し筋力が落ちてしまうと、今度はもう片方の足に関する負担がかかりやすくなってしまい、二次的な障害が発生する確率が高くなるのです。

たとえば野球を例に挙げるならば、肩が痛いのにそれをかばって投球を続けていくと、今度は肘に痛みが続発してくるようなケースも多々ありますが、それと全く同じ道理でスポーツ障害の連鎖反応が起きるということになります。

マラソン・ランナーの方々は長い距離を走る為、特に足のふくらはぎや膝には負担がかかりやすく、走路によってはアップダウンの多いケースもあって、そのようなケースでは特に膝関節への負担によって膝の半月板や靭帯部などにストレスがかかり傷めてしまうケースもあるでしょう。

今回社会人ランナーであるAさんの右膝関節を検査してみると、「半月板」や「靭帯部」に損傷が認められるような状態ではありませんでしたが、膝の裏にある膝窩筋部や大腿半腱半膜様筋、それから下腿三頭筋の内側頭部に筋疲労による過度の筋緊張を認めました。

またAさんの訴えられたお話のなかには、「ランニング練習をはじめて5kmくらい走っていると、徐々に膝の裏に痛みを感じ、そのまま走り続けていると今度は膝の前(膝のお皿のあたり)にも痛みが出てくる。」といった状態のようでしたので、膝のお皿(膝蓋骨)周辺を検査してみましたが、特に炎症徴候も無く圧痛も認めません。

このような現象は「運動時における筋肉・関節の連動性やバランスを欠いた状態を起因とするストレス痛」と云って、安静時にはあまり自覚痛を発生させないタイプの障害です。

スポーツ障害の多くは、その運動姿勢をとらないと「痛みが出ない」ことも多く、障害初期には病院の検査で何も異常が無い場合には見過ごされやすいのです。しかし実はスポーツ障害における痛みというのは「運動によって発生する状態」がまず初期段階には必ずあって、その後に状態がもう少し悪くなってはじめて、安静時の痛みが持続する状態へと移行していく場合があります。

したがって「初期段階の痛みのある状態を早期に改善しておく」ことで、重度のスポーツ障害へと移行せずに済む場合が多い・・・ということになり、それが施療による重度スポーツ障害への予防となっていくのです。

Aさんの右膝の状態というのは、まだ安静時に酷い痛みがわるわけではなく、半月板も靭帯部にも異常が無いいわゆる「中等度のスポーツ障害」なので、今のところ完全に走れないような状態ではありませんが、「長い距離を走るには無理がある状態」ということになります。そしてその状態を改善するために、ここ横浜・多宝堂へご来院頂いた・・・ということになります。

こういった障害ケースで施療を行っていく場合に、私はまず初期目標として「異常のある筋肉を元に戻すため」に施療を行っています。具体的に挙げるならばスポーツ・マッサージを行いながら、患部を中心にその筋肉に関連している身体各部の筋肉の上下左右前後の筋緊張を「均等にする」ことを目的にしながら、スポーツ・マッサージを行いますが、下肢(足)の障害であれば、特に「左右差を均等にすることを目標」にします。

バランスを欠いたランニング・フォームであれば、必ずと云っていいほど下肢の筋肉の緊張状態には左右差が認められるのですが、この左右差が何故発生するのか?という要因には、ランニング・フォームだけでは無く、左右の足の筋力差や骨盤の状態によっても影響を受けやすいのです。

たとえば骨盤が後傾(ふとももの後ろ側に傾いた状態)していれば、ランニングを行う際に、「太ももが前へ上りにくく」なります。すると今度はその分だけ、「ふくらはぎを使って前へ進もうとする」ので、通常よりも「ふくらはぎに負担がかかる」ことになります。

ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)というのは上下で筋腹から腱に移行し骨に付着するので、上部であれば膝の関節を跨って大腿骨(ふとももの骨)に付着していますし、下部であればアキレス腱となって足部の骨部(かかと)に付着しているので、上下どちらかにストレスが生じていれば、「膝」か「かかと」に「ストレス痛」を発生させていくことになります。

そしてAさんのように「走っていると膝に痛みが出て曲げられなくなるようなケース」の中には、この下腿三頭筋に異常がある場合が多く、膝の関節に異常を認めない場合であれば、まずふくらはぎの異常を取り除くことで改善していくこともあるのです。

ですから今回のAさんの場合には、上部である「膝」に関連している下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)の異常緊張状態による「関連痛=ストレス痛」によるもので、このような場合には、先に挙げたような施療を初期目標にしながら、早期に改善を図っていくために「鍼治療」も同時に併行して行っていくことになります。

「スポーツ障害における鍼治療の有効性」の中には、「早期に筋肉の異常緊張状態を改善できる」また「局所的な運動時の痛みを早期に改善できる」ことが挙げられますので、Aさんのような中等度のスポーツ障害には最善の「治療法であり改善法」になるわけです。

このようなケースで長期に亘って「湿布薬」を貼って改善しようとしたり、消炎鎮痛剤などが含まれている「軟膏」を患部に塗りながら、なかなか改善しない方も沢山おられるようですが、それは「局所的な問題」だけでは無く、実は上記のような要因によって生じている「筋肉の異常緊張を伴った関連痛=ストレス痛」だからです。

スポーツ障害における中等度の障害の中には、このように薬を用いるだけでは改善しないケースも多く、そういった方々における改善法、治療法の中には「鍼灸マッサージや整体」が一番効果を出しながら、早期にスポーツ競技へと復帰していくケースが沢山存在しています。

私はプロ野球の世界で選手達の様々なスポーツ障害に関する施療を行ってきましたが、その中において一番大切にしてきたのが、「この手で筋肉の状態を感じ取ること」なのですが、それはここ横浜・多宝堂における施療でも全く同じであり、クライアントさんへの施療の中で一番大切にしている要になります。

そしてそういった触知(手で触って認識する)による検査や認識というのは、レントゲン検査やMRI検査、超音波による検査では認識することの出来ない領域であり、中等度のスポーツ障害では実はそこが一番大切な検査領域になっているのです。

人間の身体というのは、おおまかに見れば頭、首、背骨、骨盤という基本軸があり、左右の手足によって構成されています。そして施療というのはその基本軸を中心にしながら、まずそこに異常があるかどうかを見極め、もしそこに異常が無ければ、左右の問題を解き明かしていく・・・というケースが一つと、その反対のケースももちろん出てきます。

そして根本的な問題と局所的な問題・・・・ここを如何にして改善していくのか?ということが、スポーツ障害における早期回復へと結び付けていく一番の道理・道筋になってくるのですが、そこに実質的な経験からくる判断が伴ってはじめて、功を奏するのではないかと感じてきました。

今日はAさんがまた笑顔でマラソンをいつまでも走り続けられるように・・・・そんな思いを込めながら、今日はここで少しお話をさせていただきました。(by 院長)