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少年期の野球肘傷害

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先日、高校1年生の男の子A君が施療に訪れてくれました。

まだ中学校3年生の頃ですから数ヶ月前になりますが、当初 野球肘で痛みが有るということで当治療院を受診された際には、肘関節の可動域狭少化や関節面の疼痛の程度など私が客観的に察しても「軟骨部の異常」は歴然としていたのを思い出しました。

施療を施しながらも一緒に連れ添って来られたお母さんには「もしかしたら・・・これは軟骨部が剥がれちゃってる状態かもしれませんね・・・。念のためスポーツ整形外科でレントゲンを撮って頂いてからドクターの診断を受けてみてください。」そう私はアドバイスしたのです。

野球肘というのは特に小学生の高学年から中学生の間に最も発生しやすく、肩関節や肘関節に負担を強いる悪い投球フォームや日頃の投球数過多、それから全身的な筋力の不足などの問題が複雑に絡んで発生していますから、その原因を取り除く段階で防いでいけば、酷い状態にはならないわけです。しかしA君の場合には状態が思わしくなかったため、すぐに病院受診をお母さんにも薦めたわけです。

通常は軟骨部というのはレントゲンには映らないんですが、硬い骨部と柔らかい軟骨の間には骨端部が確認できます。「骨端部離開」といって軟骨部が硬い骨の部分から離れてしまう投球骨折が野球肘の最悪のケースになるわけですが、結果的にA君はこのような状態に陥ってしまっていた為、病院で手術を受けることになったようです。

術後数ヶ月が経過しての来院だったので、患部の腫れは無く、やや伸展制限と前腕部の回外運動に硬さが認められるだけでしたので、手術はほぼ99%成功といって良いと感じますが、いずれにしても少年期に手術を受けるような野球肘障害を起してしまうと潜在的には「投球時に怖さが残る」ということがあります。

これはプロ野球選手に限らずアマチュア選手にも学生野球の選手にも言えることですが、肘関節の疼痛というのは投球に際しては騙し騙し投げ続ける事は絶対に困難です。肩関節の痛みというのは多少庇って投げられるのですが、こと肘の痛みが有る場合に関して言えばそれが無理なのです。

そういう意味でも年齢を問わず手術後の肘関節のリハビリというのは慎重に行われていかなければなりませんし、少年期に手術したのであれば当然「絶対に無理は禁物」です。

例えば投球を開始したときに大切な事というのは、けして早い時期に距離を伸ばそうとしないことです。まず投げるための感覚のうちー指先、手首、肘、肩、肩甲骨、体幹、骨盤、下肢などこれらがしっかり連動していくようにイメージして投球フォームを確認しながらスローイングを行うようにして欲しいと思います。投げる距離は3m~5mぐらい離れたところから網に向って投げるくらいで丁度良いと思います。いきなりキャッチボールを再開してしまうと、相手が離れていってしまったりすると長い距離を無理して投げなければなりませんから、これはno goodです。自分のペースで投げられる「投球強度と距離、球数」を満たす為には「網」に向って「自分のペース」で投げるのがベストです。

初めは2日投げたら1日ノースローにして20球、30球、40球、50球、60球と徐々に投球数を増やしていきながら、今度は3日投げたら1日ノースロー・・・というように連投する日にちの数を増やしていきながら、その後の肘の状態を確認して異常が起きてこないか確認しながら投球練習を行って欲しいと思います。

手術後に投球を再開すると、必ず何度かに一回くらいは痛みや違和感・張り感などを自覚することがありますが、こういう場合以外でも投球リハビリ後には必ずアイシングを10分~15分は行うようにして肘関節の炎症の沈静化を心がけて下さい。そして前腕部や上腕部の張りが少し出てくるようになったら、スポーツマッサージ等で施療を加えながら、関節可動域の確保を行っていくと良いと思います。その際には握力や肩の可動域、インナーマッスルのバランス、肩甲骨の運動性にも注意をはらいながら施療を加えていきます。

通常は病院のリハビリが終わる段階というのは、一応 炎症も無く、患部組織(骨、周囲の靭帯部、筋肉の状態など)に異変も認めず、関節の動く範囲もほぼ8割程度回復してくる頃になると思いますが、ここから先のグランド・レベルで行う投球練習再開の時期が一番慎重に行われなければ成らないリハビリとなります。

これは手術の内容やピッチャーと野手では多少その慎重程度も変化してきますが、10代の場合には大人の1.5倍程度の時間を診ながら行っていく方が私は良いように感じています。

リハビリ期に無理をしないようにしていけば、オペ後の肘関節(骨や軟骨部、靭帯部、周囲の筋肉など)の状態は「しっかりと自分の肘関節に戻って投げても打っても違和感が出ない」ように必ずなっていきます。その時期が来るまでに「正しいフォーム」や「体のコンディショニング」の方を主体にしっかりと行っていけば非常に状態の良い肘で「投球を強く行えるようになる」わけですから、今後も焦らずに行っていくようにして欲しいですね。

学生野球の場合、投球傷害で手術を行って強い投球が出来ないと他の部員と同じ練習が出来ないので「球ひろい」ばかりさせられることもあるかと思います。しかしフリー打撃で打ち放たれたボールというのは、当然 沢山転がってきますから、それを全部投げ返していたら、投げすぎになってしまいます。ですから必ず「球数」を決め、投げる距離も中途半端にやらせないで「何メートルまで」と決めて行わせるようにしましょう。それから必ず投げ終わったら「アイシング」を行わせて下さい。

特に炎天下の真夏日では肩や肘関節に炎症を起しやすいので、投球リハビリ中は投球後すぐにアイシングを行って欲しいものです。炎症が起こっている場合には「何となく重いな」とか「力が入りにくいな」とか「ちょっとツーンとしたような痛みや違和感があるな」といった状態・感覚を感じるものですから、それらの「感覚」を自分で良く確認させて欲しいと思います。

昨日 初施療に訪れてくれたシニアリーグの中学生のお子さんも実は肘の内側に違和感を訴え来院されたわけですが、やや前腕や上腕の張りが認められたものの初期の段階で訪れてくれたので、ほぼ問題ない程度だったのです。

但しこういった「肘の違和感」を通り過ぎ、「痛み」に変わった場合には「すぐに投球やバッティングを中止」するように指導して欲しいと思います。こういうケースというのは意外と稀で、少年期の野球肘の大半が「実はずっと肘に痛みがあったけど、投げられるし打つことも出来たから・・・」と言って、そのまま練習や試合を通常通り行ってしまって結局は悪化してしまった・・・という段階になって来院されることがありますが、肘の場合には「違和感、張り感=炎症」「痛み、関節可動域の狭小化=関節軟骨の異常」という図式で察するようにして、必ず一度プレーを中止させて確認することが大切です。

指導者側の理論として「下半身が強くなれば肩や肘に負担が来ないのですから、その分ランニング練習を多くしっかりと行わせているんですがね・・・」といった反応は多いと思います。しかし実際は下半身の筋力はもちろん大切ですが、体幹(腹筋や側腹筋、背筋、股関節周囲の筋群)筋群はもっと重要なわけです。ランニングばかり行っていても、それらが強化されていかなければ、下半身の力を上半身に上手く活用出来ないわけです。そういう意味でも選手達・・・とりわけ成長期にあるお子さん達への「トレーニング部位の不足」というのは、最もバランスの悪い体を創り上げていく根本となっていくため、野球のように「単方向への力発揮」が多いスポーツであればあるほど体に負担がかかりやすくなる・・・ということを知って頂きたいと思います。

そういった「トレーニングに対する目」を指導者側がしっかりと持たなければ、こういった成長期のお子さん達のスポーツ傷害というのは未然に防ぐ事は出来ない・・・それだけは断言出来ます。

プロ野球の世界では技術コーチ達は必ずトレーナーに「今こういった練習をさせてるんだけど、体的には問題ないかな?」というように聞いてくる人達が大勢います。何故なら反復練習で技術練習を行おうとする場合、「体のある部分、若しくは一部に多くの負担が及ぶ」ことをコーチ自らがよく知っているからです。今までと違う体の使い方・・・すなわちフォームの変更をする場合などでは動作がかなり不自然になる場合がありますから、今まであまり使われていなかった筋肉群が急激に使われるようになって、選手も故障を起しやすいということをコーチは知っているのです。こういった場合でも筋肉が疲労を起したくらいであれば全く問題はないのですが、関節に異常が出てきた場合にはスポーツ傷害に移行する確立が高くなっていきます。

少年期というのは体が完全に出来上がっていない為、これらの影響をもろに受けてしまいますから、「体の状態をしっかり把握」した上で反復練習などを行わせていくことが必要ではないかと思います。

それから一番大切な事は?というのを良くご父兄の方々にご質問されるのですが、当然それは「ウォーミングアップとクールダウン」を選手達が自主的に行う・・ということになります。

このウォーミングアップとクールダウンをしっかり行わせていない、若しくは行えないチームの場合は、まず指導者側が「運動に対する科学的な目」を養うために勉強していくべきです。スポーツを単に「コミュニティーの場」「鍛錬」「勝負」というものさしだけで考えていくと、どうしても科学的な根拠に乏しい指導に成りがちですが、実はスポーツというのは「健康的」に行われていくことが最大限求められるものでは無いでしょうか。スポーツが結果的に「体」を傷めてしまうことに繋がらないためには、やはり「科学的な根拠・裏づけ」が必要なのは言うまでもありません。

子供にスポーツを行わせ健全にスクスクと育って欲しい・・・それが親の心ではないでしょうか?体を痛めてまでも今 行っているスポーツで結果を導き出して欲しい・・・とは思っていないはずです。

ですからスポーツを指導する側にいる学校の先生や監督・コーチ指導者、それからお子さんに直接的な悩みを打ち明けられる側にある親側が行っていくべきことの中にある一番大切な事とは「子供の健全な体をしっかり守ってあげるという意識」と「障害を起さないための知識」を得る事であり、実際の現場でそれらを積極的に用いていくことでは無いかと思います。

この都筑区から少年期の野球肘障害が無くなる日まで、私はこのような事を言い続けると思いますが(笑)、大切な事は「中途半端な対応や反応」を見せないことです。

親も指導者もそのあたりをしっかり確認しあって、子供達の体について日々対話が出来るように・・・またそういった雰囲気を指導者側が創っていくことで、きっと両者の間にしっかりとした絆が形作られていくのではないでしょうか。真に健全なスポーツ活動の場をお子さん達に提供することは難しいと思いますが、それを叶えていく事が少年期のお子さん達に対する親や指導者達からの労わりであり、真の支えであると私は考えています。(by 院長)