野球肩・野球肘の予防とコンディショニング
正しいスローイング・フォームで投球を行っていたはずなのに、いつの間にか肩や肘に違和感や痛みを訴えてくるようなお子さんがなかにはいると思います。
チームの指導者さんからしっかり指導を受けていて投げ方には問題が無いはずなのに・・・と、首をかしげてご質問を頂くようなケースもかなりあります。
もちろんこのようなケースの場合も、親御さんに連れられ、ここ横浜・多宝堂治療院へ訪れていただいてきたわけですが、お子さん達の肩や肘を様々な角度からチェックしても現状では「野球肩・野球肘」には陥っていない状態であることが多いものです。
まずお子さん達にお越し頂いた際には、まずそれまでの状況をすべてお聞きしてから、肩関節や肘関節の動作チェック・理学テスト等を行いながら、最終的には筋肉や靱帯、腱や骨部のストレス・テストによって違和感や痛みを感じている箇所を限定していきます。
その際にお子さん達は「ここが痛い」といった反応を見せる場合と、「この辺り全体が痛い」といった反応を見せることがあります。またなかには「何か変な感じがする」とか「いつもと違う感じ」とか「力が入りづらい」といった反応を示す場合もあります。
病院の検査でレントゲンを撮っても骨に異常なかった。
関節の可動域にも異常がなかった。
投球動作にも問題がないと言われた。
上記のような3つの条件が揃っていれば、通常は「全く異常は認められないし問題はない」という診断が出るので、親御さん達はひとまず安心してそのままお子さん達に野球を続けさせるはずです。
しかしそこから2週間後・3週間後に「やっぱり投げるときに痛みが出てきた、何だかおかしい」と言ってお子さんが訴える・・・といって、「どうしてなんでしょう?」と大いなる疑問を抱き、あわててご連絡を頂くこともありました。
以前にも何度かお話ししましたが、野球肩や野球肘を予防していく為には、フォームや投球数の管理が一番大切な事は言うまでもないことですが、実は「お子さん個々におけるコンディション」をしっかり管理していくことに対しては、あまり重要視されていない部分も感じてきました。
体の状態というのは日々変化しており、常に一定ではありませんから、たとえば前日に試合があってピッチングで沢山ボールを投げたり、体調があまり優れなかったけれど試合には何とか出場した・・・といったケースもあるでしょう。
また学校のテスト勉強のために夜遅くまで起きていたり、朝ごはんを食べないで出て行ったりといった、体調不良に陥りやすい状況の中でスポーツを行っているケースもあるでしょう。
実はそういったときにこそ「本当は注意しなければならない」ということになるわけです。
たとえばお子さん達の疲労度を測る物差しとして、起床時の体温や心拍数を測ってみる・・・といった方法がありますが、これはお子さんに限らずオリンピックに出場するようなアスリート達においても全く同じことで、その日のコンディションを数値的な面で確認していく方法となるわけです。
人間の平均体温は36.5℃ですから、それよりも体温が低ければ免疫力が落ちていることになるし、それよりも高ければ何らかの体内における炎症徴候が疑われます。
また心拍数であれば、例えば1ヶ月間、毎朝起床時に寝ながら1分間の心拍数を計って、それを記録しておけば、お子さんの平均的な心拍数が割り出せますから、その平均値を基準にして、その日の朝の心拍数が上がっているのか?下がっているのか?ということから疲労度を把握することも可能になるわけです。
疲れていればとうぜん心拍数は平均値よりも必ず上がっていきますし、前日よりも5~10程度心拍数の急激な上昇を示していれば「疲労が蓄積している」というふうに察して、練習強度を落としたり、リラックスさせることでコンディションを良い状態へと向かわせていくことも必要ではないでしょうか。
「最近、どうも朝起きたときに背中がこわばってるなぁ」
「あまり食欲がないなぁ」
といった内部感覚というのは「疲労のサイン」ですが、これはお子さんの中にも見られる疲労のサインです。ただしお子さん達が「背中が張っている」とか「食欲が無い」なんてことはあまり言わないでしょうから(笑)、そういった意味でも「疲労度」をどのように見極めていくのか?という部分においては、常にお子さん達の身近にいらっしゃる親御さん達にこそ、名トレーナーになっていただかなくてはならない・・・そういうことなのです。
特に体に発生する筋肉痛を早期に回復させるためには、まず「筋繊維を修復」させなければなりません。
筋肉痛と睡眠時間、栄養素には深い関連性があって、筋繊維の修復というのは夜間の「寝ている間」に行われています。睡眠不足は筋繊維の修復を妨げる一番の原因になります。また筋繊維修復を促す為には食事で摂取された「栄養素⇒主にタンパク質(アミノ酸)」が必要になってくる・・・そういうことになりますので、「きちんと栄養を摂取する」ことも同時に求められるわけです。
その上で野球をプレーしている少年期のお子さん達の野球肩や野球肘を予防する為にも、「より良いコンディション作り」は欠かせない・・・そういうことです。
たとえば肩甲骨付近を含めた背中、股関節、足首が疲労で硬くなっていれば、肩甲帯や体幹のひねり動作は当然硬くなりますから、そのような状態でボールを沢山投げ続けていればバランスの悪い投球フォームに悪化していると言えるでしょうし、これはもちろんバッティング動作においても全く同じことが言えるはずです。
そのようなときでも練習や試合が終わって家に帰ってきたら、首までお風呂に漬かって体をしっかりと温めてから、全身の筋緊張を解きほぐす為にストレッチを行い、それから食事で栄養をゆっくり摂取させ、早めに就寝させていけば疲労度もグッと下がっていくはずです。
また夏場の暑い時期には汗を一杯かきますから、水分補給や栄養補給は欠かせない事項となりますし、睡眠時間は最も大切になります。
お子さん達の体が大きくなっていくのは、夜 寝ている間に成長ホルモンがきちんと出ているからこそですから、しっかり栄養を取り、早めに就寝させていくことが成長期には最も大切だというのは言うまでもありません。栄養不足、寝不足が一番成長を阻害してしまうし、そのようなコンディションが野球肩・野球肘に限らず怪我や故障を誘発させていく根本的な要因となる・・そういうことです。
なかなかこれは耳に痛いようなお話しだとは思いますが、それは陰日なたから日々支えておられる親御さん達のご協力があってこそ、お子さん達の真の健全なスポーツ活動がある・・・ということではないでしょうか。(by院長)