野球肘の前兆を見逃さない一番の方法
今日訪れてくれたA君は小学校4年生、もうすぐ5年生になる少年野球チームのお子さんです。A君は練習中のボール回しで肘に痛みを自覚したようですが、すぐにその事をお父さん達に報告しました。A君の肘の状態を確認してみると、特に関節可能域に問題はありません。ただし肘の曲げ伸ばしで関節周囲の「筋肉」に痛みを自覚していました。
肘の周囲の筋肉を触診してみると、前腕部にある回内筋や前腕屈筋群、それから前腕伸筋群にかなり強い筋緊張が認められています。当然、筋肉を軽く押しても痛みが出るくらい強い筋緊張がありますから、肘の曲げ伸ばしによって筋肉が伸びたり縮んだりすると、その筋肉に痛みが出るのです。以前にもブログで野球肘について綴ったことがあるのですが、こういった野球のスローイングで肘に負担がかかってしまう一番の原因は、投球フォームに問題がある場合がほとんどです。
投球フォームの中で肘に負担が起こる一番の原因を考察していく為には、「正しい形」「正しい投球フォーム」を認識していなければなりません。ここが指導出来ないと、必ず野球肘を起こしてしまう真の原因究明が出来ない・・・そういうことになってくるのです。
今日はA君の投球フォームを細かくチェックして、どこに一番の問題があるのかをお父さんと一緒に確認しながら、正しい投球フォームに対する認識を施療の前後で行っていきました。
小学校4年生、5年生の頃というのは肩や肘に問題が起こってくる一番多い時期になりますが、何故かというとお子さん達の身体が大きくなり始めるからなのです。身体が大きくなる・・・ということはどういうことかと云いますと、「骨が伸びている」ということになります。それでは骨格が大きくなるにつれて筋肉はどうなるかというと、筋繊維が「細長く」なっていくということになります。低学年ではややふっくらとしたお子さんでも、背が伸びてくるにつれて、徐々に細長い感じの印象を受けますが、それは骨が成長して伸びていくにしたがって、筋繊維も細長くなっているからです。
筋肉の成長は骨の成長よりも、後から起こってくるので、今までと同じ動きをさせていても、やや筋肉に負担が及びやすくなっているようです。そして筋肉にダメージを起こしているのに、そのまま肩や肘に負担がかかる投球フォームを継続してしまうと、今度は「関節」に負担が及んでいく・・・ということになるのです。これが野球肩・野球肘の初期症状になるわけです。
今回、A君は肘に痛みを自覚して、すぐにお父さん達に相談したので、状態はそれほど酷いものではありませんでした。そしてそのような状態であれば、治っていくのにそれほど時間はかからないのです。ところがその原因(肘が痛くなった原因)をここで究明しておかないと、また同じことを繰り返してしまいます。それではお子さんが可愛そうです。投球フォームに修正を加えてあげる必要があれば、それを行い、もし筋力的な問題があれば、それを改善する為のコンディショニングを行わせてあげなければ、お子さんが可愛そうです。彼らはチームの中で野球を行っていますが、それは「野球が好き」だからです。その野球を楽しく継続していく為には、まず「正しい形」を習得して、体を痛めない方法を学んでいく必要があります。体に支障が出てしまえば、好きなスポーツを長く行う事は出来ないからです。
特に野球というスポーツは肩や肘に問題を抱えやすいものですから、その原因を指導者が学んでおくことは必須になります。指導者とはつまりお父さんやチームの監督・コーチのことなのです。
これからA君のお父さんが横浜・多宝堂で学んでくれた事をA君にしっかり指導し確認してあげることで、今後もA君が楽しく野球を続けていってくれることだと思いますが、そういった親子の絆や信頼関係がその後の未来に大きく開いていってくれることこそが、ここで施療を行う真の意味だと私は思っています。
野球肘の前兆を見逃さない一番の方法は、お子さんたちが正直に何でも言える状況を作ってあげることなのです。痛ければ痛い・・・そう正直に言える環境さえあれば、野球肘を悪化させずに済みます。そしてその言葉を受け入れる側にあるお父さん・お母さん達や指導者さん達が、その後の対応の中で「一番有効な方法」を持っているかどうか?というのが、一番大切なことではないかと思います。
A君もお父さんも今日はどうもありがとうございました。しっかり肘を治して一日も早く皆んなと一緒に野球が出来る日を私も楽しみにしています。(by 院長)