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陸上選手の足(親指)の痛み・代償性運動による二次的な障害

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スポーツ障害は同じ動作の繰り返しによって、肩や肘、手首、腰や膝、足首などの関節に過度のストレスがかかって「微小損傷」により発生することが多いものです。

先日、初めてここ横浜・多宝堂におこしいただいた「中学生の陸上選手」からのご相談を例に挙げて今日は少しお話しさせていただきましょう。

Aさんの訴えた症状はまず「両足の親指の痛み」があることと「片側の膝の後ろ側の痛み」でした。親指に痛みを自覚していたAさんは、まず整形外科へ行きレントゲン検査を受けました。「骨には異常が無い」と先生に言われたそうですが、練習でランニングを行っていると、やはり両足の親指に嫌な痛みを感じているので大変困っていたご様子でした。

さっそく両足の親指を確認してみると、確かに変形がある様子では無いし、外観から診ても腫れは無く「酷い炎症症状がある状態」でもなさそうです。電話でご相談を頂いた際には「外反母趾」の可能性も示唆されたのですが、変形などは全く無いし腫れがありません。普段から使用している靴が合わなくて痛みがあるのであれば、靴を変えれば良いことですが、どうもそうではなさそうです。

「膝の裏の痛みはいつ頃からあったんですか?」

「去年の夏ごろからです。」

「そのときはまだ足の親指は痛くなかったんですか?」

「はい。親指の痛みは今年に入ってからです。初めは片方の足の親指が痛くなって、次にこっちの足の親指が痛くなりました・・・。」

そこまでお話をお伺いしてから、私はすぐに足の親指の痛みの要因に気が付きました。昨年の途中から膝の裏に痛みを自覚していた・・・ということは、当然 無意識的に痛みをかばってランニングなどを行っていたはずです。

「膝の裏が痛かった頃から、かばってランニングをしていたでしょう?どうですか。」

「はい。かばってたと思います。」

「そうですか。恐らく膝の裏の痛みをかばいながらランニングをしていたので、走る動作の中で足の親指で地面を蹴るときに不自然な足の動きが入ってたんじゃないかな・・・と思うんだけど、どうでしたか?」Aさんは少し考えて、軽く頷きました。

これはAさんのような膝の裏の痛みだけに限らず、股関節や大腿部、下腿部の痛みにしても同じ事が言えるのですが、下肢のどこかに痛みを自覚していれば、当然 その痛みをかばってランニングを行ったり、スポーツ動作を行うことになります。

「痛み」を感じると、通常 その部位には力が入りにくくなるものです。だからその分だけAさんは「足部」に余分な力を入れながら地面を蹴って、膝の痛みがなるべく出ないような形態で走り続けてきてしまったその結果、今年に入ってから両足の親指に「ストレス痛」を発生させてしまった・・・ということになります。

Aさんは片側の膝に痛みをかかえていた頃から、下肢の筋力全般を使ったランニング・走動作が出来なかったわけですから、その頃から「代償性の動き」が「足部」に入ってきてしまった為に、二次的な障害を「両足の親指」に抱え込んで困っていたのです。

「それじゃ、足の親指の痛みだけが治っても、またすぐに痛くなってくるだろうから、まず膝の裏の痛みを治さなくてはね。」そう私がAさんに告げると、「その通りなんですよね。」と言葉で云わなくても伝わってくるような眼差しで頷いてくれました。

病院で検査を受け、痛みのある患部に異常が無い・・・と、先生から言われただけでは、スポーツ障害というのは完治しません。それは私が今まで行ってきた多くの施療の中から感じてきたことです。「骨に異常がない。」「靭帯も異常が無い。」だから「患部に湿布を貼って少し休ませなさい。」と指導されても、部活動を休んで見学ばかりでは、何のために医療機関へと赴き時間を割いて相談に行ったのか・・・・それが無意味に思えてくるのでしょう。

「何とかこの痛みを早く解決しなければ・・・。」そんな思いがAさんの表情から伝わってくるのです。

私達スポーツ・トレーナーというのは、選手に治療を施すだけではなく、その障害に至ってしまった経緯を探ることから、まず始めます。そうしなければAさんの足の状態を改善できないことを知っているからです。だからただ身体の表面上からマッサージを行ったり電気をかけたりするだけで「簡単に解決する状態」では無いケースだとここで判断したならば、「患部を治療するだけでは無く、身体の動きの改善点をすべて洗い出し、その情報を選手に伝える」ことから入っていきます。

なぜ膝の後ろ側に痛みがあると、そのような走り方になってしまうのか。なぜそのような走り方になると足の親指にストレスが発生して痛みが出てくるのか。

それがAさんの頭の中で理解できれば、まず「イメージ」が出来上がります。Aさんの身体のどこにも異常がなくて、気持ちよくランニングを行っていた「良いイメージ」が必ずAさんの内部感覚には残っているはずです。そのときの内部感覚を呼び戻す為にも、まず下肢の障害を治して「痛みの無い状態」に戻さなければなりません。そして痛みが無くなったとしても、それではどうして膝の後ろ側に痛みを発生させてしまったのか?という真の要因がここで解明されなければ、また同じ事を繰り返してしまう可能性もあります。

だから「痛み止めのお薬を飲んだり湿布を貼ったり」しても、スポーツ障害が解決しないというのは、実はそういうことを云っているのです。「身体の何処かをスポーツによって傷めてしまう」その要因には色んな要素があります。負担のかかる動作、代償性の動き、筋力不足、筋力過多、柔軟性の不足、過度の柔軟性、体調不良、栄養不良、身体特性のスポーツとの不一致、アクシデント、運動環境の不良、指導法の誤り・・・などなど。その何れにも必ずスポーツ障害の要因というものは隠れているものです。

「再発を防ぐ為に必要なこと」「治す為に必要なこと」というのは、違う事のようで実は同じ道理の中に存在しています。再発を防ぐことをまず認識し理解していかなければ、もし今後治ったとしても又、同じ場所を怪我したり傷めてしまうのですから、それでは結局同じ事の繰り返しになってしまうからです。だから「再発予防と治す事」というのは同じ意味を成していることになるのです。

しかしそこまでを理解していくには、当然 時間がかかります。なかなかそう簡単に理解はしてくれません。まず患部が良くならなければならないし、状態が良くなってはじめて「再発の危険性」を改めて実感することになります。何故なら痛みが無くなってからも「怖さ」を実感するからです。「また痛くなるかもしれない。」みんなそう感じながらスポーツへと復帰していきます。しかし「予防策への実行」があれば、その不安もいくらか解消できます。その為にリハビリやトレーニングの中で「自信」をつけなければならないのです。強化トレーニングというのは身体を強化する為のものですが、実は「選手自身の不安を取り除き勇気を引き出すため」にも機能しているのです。

「これだけ自分の身体を自在にコントロールできれば、もう故障なんかしない。」

そのような領域に意識・精神が入ってくれば、選手の動きには自信が満ち溢れてきます。だから不安を感じている選手の動きや表情を見ているとそれが良く伝わってくるし、そういった選手が故障をおこす確率が高くなることも理解できるのです。

自信をもって走り続けていく為に必要なこと・・・その事を施療を通じながらAさんに理解して貰いたかったのですが、どうだったでしょうか?上手く伝わったかな。Aさんにはこれからも夢を追い続けながら走り続けて欲しい・・・そんな思いで今日はブログを綴らせていただきました。(by 院長)