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ヤンキース田中将大投手の肘・内側側副靭帯損傷とPitcher Abuse Points(投手酷使ポイント)の関連性

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1試合でメジャリーグ投手の1年分の酷使度、アメリカ指標で見るマー君160球の衝撃

・・・・と題して、ナンバーWEBで昨年末に記事が掲載されていた。


上記の記事によると「Pitcher Abuse Points」という「投手酷使度」の目安を計る計算式がMLBで使用されており、通称「PAP」と呼ばれているという。

その数式は→(投球数-100)の3乗で数値を割り出す・・・というもの。

つまり・・・楽天イーグルス時代に田中将大投手は日本シリーズで1試合160球を投げ切ったが、そうすると先程の計算式に当てはめると・・

160球ー100=60、その60の3乗で60×60×60

つまり数値は「21万6000」となる。

記事によれば、「現在、アメリカで「酷使」と見なされるのは1シーズンで10万ポイントを突破した投手だ。」とされているのが常識になっている・・・と記載されている。そうすると田中投手は日本シリーズの投球数だけでもPAP数値が「21万6000」に到達してしまい、たった1試合でメジャーリーグ投手達の1年分×2倍以上の酷使度だったということになるというわけで、それだけ衝撃的な登板だった・・・ということになるが、それほどの投球が可能だった田中投手を「優れた投手」だから・・・と判断するに留まってしまっては話が終わってしまう。

田中投手が楽天イーグルス時代、日本シリーズで登板し160球を投げ切り、連投してセーブも挙げ、イーグルスを優勝に導いてきたのは私達の記憶に新しいところだが、その後、ヤンキースへ移籍し、入団後も大活躍を遂げてきた田中投手が今回、こんなにも早い時期に肘の内側側副靭帯部を部分断裂してしまった・・・といった経緯を考える上で、上記の記事を取り上げたならば、それは一つの大きな意味を持ったものになるのかもしれない。

メジャーリ-グでは10年前から投手起用法の劇的な変化が数字に現れている・・・・とされているが、こうした明確な投手の酷使ポイントを計算して管理・評価されているということを知れば、恐らく過去から現在において、日本のプロ野球投手達がいかに「酷使」されてきたのかが理解できるし、それは優れている投手達ほど、その状況は顕著なものになってきたはずである。

こういった投手達の酷使度を計る計算式をプロ野球投手達だけではなく、少年野球や高校・大学野球界の投手達に当てはめて考えた上で、今後もし適切な管理・評価方法が生み出されていくならば、投手に多い肘の内側側副靭帯損傷を未然に防止していく一つの布石となっていく可能性も高くなるのではないだろうか?・・という予測も立てられる。

そして「投手の肩や肘は消耗品である」・・・ということが当然だとしても、たとえば子供達が野球を始めピッチャーをプレーするとして、試合時に限らず、日常の投球練習を含め、少年野球選手達の肩関節・肘関節を守っていく為の管理・評価方法が、まだまだ明確になっているとは言えない現状もあるのではないか?という危惧感は残る。

その上で、このPAPといった投手の酷使度を計る計算式が、何らかの形で日本人のタイプに変換され、新たな管理基準や管理基盤としていくことも一つの方法論として考えられる・・・とも言えるだろう。

高校野球の今までの状況を鑑みれば、エース級の投手が毎試合連投しながら全国優勝を果たしていく姿は、もちろん私達に感動を呼び覚ましてくれたが、そういった有望な学生投手達がプロフェッショナル・・・つまり職業野球選手として、その後も活躍していくことを私達は切に願ってはいるものの、マチュア学生野球の障害予防的なガイドラインが、まだまだ不完全であり、それらが徹底されているとは言いがたい局面もあるのではないかという風に感じることがある。

プロフェッショナルとしてマウンドに立つ投手達が、実際には「消耗品である肩や肘の関節」をその野球人生の途上で痛め、手術を受けたり致命的な故障を抱えてしまう・・という事実は、当然現在も起こっているし、私自身ももちろんそういった選手達を裏側から支えながら見てきた。

だからこそ根本的な課題へと焦点を合わようとすれば、やはり「アマチュア学生野球選手達」への、適切な障害発生のリスクをどのようにして減らしていくのかという考察を行う中で、上記のような考え方や管理基準というものは当然必要になってくるのではないか・・・という意見に傾むかざるをえないし、大切な要素であるとも言えるだろう。

ここへ来て、田中投手の肘の故障発生によるものかどうかは定かでないが、高校野球連盟が春夏の全国高校野球大会における延長戦時のタイブレーク方式導入に関するアンケート実施を指導者層に行っているというニュースが流れているが、実質的な形で学生野球選手達の身体的資質を守っていく為に必要な要素として、ゲーム形式にまで議論が及んでいくことは、とても望ましい野球界の進展ではないかと思う。

更に・・・今後も各野球協会による少年野球大会の試合形式や日程、また投手起用に関する障害予防基準の明確な打ち出し等があれば、特に若年層の野球選手達の肩や肘を長期にわたり守っていく為の、大いなる布石となっていくのではないかと思う。(by院長)



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長谷川滋利(オリックス→エンゼルス→マリナーズ)
/コラム・投手の肩を守る