スポーツ・マッサージと筋肉痛緩和の原理
以下はHealthday Japanのサイトに掲載された文章です。
マッサージによる筋肉痛緩和の機序が科学的に示される
激しい運動の後にマッサージを受けると、気持ちがよいだけでなく、細胞レベルで筋肉の炎症が軽減することが明らかにされた。「マッサージによって骨格筋のミトコンドリア(細胞のエネルギーを産生する「発電所」)の増殖が促進されると考えられる」と、米バックBuck加齢研究所(カリフォルニア州)およびカナダ、マックマスターMcMaster大学(オンタリオ州)の研究グループは説明している。
今回の研究では、男性11人にエアロバイクで限界まで運動してもらった後、大腿四頭筋の筋組織検体の遺伝子分析を実施。運動の後、各被験者の片方の脚にマッサージをし、運動前、10分間のマッサージの直後および運動終了から2.5時間後に両脚から組織検体を採取した。
その結果、マッサージによって筋細胞内でサイトカインと呼ばれる炎症性蛋白(たんぱく)の活性が減少し、新たなミトコンドリアの増殖が促進されることがわかった。この研究は、医学誌「Science Translational Medicine(サイエンス ・トランスレーショナル医療)」オンライン版に2月1日掲載された。
運動後にマッサージを受けると筋肉痛が軽減することは多くの人が感じていることだが、「この痛みの軽減には、一般的な抗炎症薬が標的とするものと同じ機序が関与していると考えられる」とバック研究所のSimon Melov氏は説明し、「マッサージが快適であることは誰もが認めるが、今回、この経験に科学的な裏づけが得られた」と述べている。
筆頭著者であるマックマスター大学のMark Tarnopolsky博士は、「マッサージの潜在的ベネフィット(便益)は、高齢者、筋骨格を損傷した患者、慢性炎症性疾患患者など、幅広い人々に役立つ可能性がある」と述べ、「今回の研究は、医療現場においてマッサージのような手技療法(manipulative therapy)の正当性を示す根拠となるものである」と付け加えている。(HealthDay News 2月1日)
http://consumer.healthday.com/Article.asp?AID=661347
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長年、私はプロ・スポーツ選手達に対し行ってきたスポーツマッサージの効果について、彼らの「筋肉痛をやわらげたり、それによって肩や肘、腰や膝などの関節の炎症が軽くなっていく様子」をこの目で見ながら実感してきました。
そして経験的・体験的にはマッサージという「治療手法の有効性」を20年以上にわたり施療を続けながら理解してきたものの、マッサージが人体に及ぼしている科学的な作用や細胞レベルの変化というものは教科書にも掲載されていなかったため、「なぜマッサージを行うと筋肉や関節の痛みが軽減されていくんだろう?」といった疑問は長きにわたって私の頭の中で堂々巡りをしてきました。
もちろんマッサージを施せば「全身の血液循環が良くなるので、筋肉や関節に良い影響を与えることができるのは当然だ。」としても、ただ血液の循環を促そうと考えるのであれば、何もわざわざマッサージを行わなくとも、温泉につかったり、サウナで汗をかいたり、軽い運動を行って全身の血の巡りを良くしてあげればいいのですから、マッサージの有効性や効果は、そういった類のものと大差ないということになってしまいます。
しかし今回、アメリカで行われたマッサージの効果に関する研究の中では、「細胞レベルで抗炎症作用や鎮痛作用が認められた。」ということであり、それは取りも直さず、今まで行ってきた幾多のスポーツ障害に対するマッサージ施療によって患部が治癒していく科学的な根拠となるものである・・・そういうことになるでしょう。
ただし、マッサージに関する悪評の中で一般的によく言われてきたものの中には、いわゆる「もみ返し」なる言葉があるように、皮膚や筋肉を不適切な力や手法で刺激してしまうと、「逆に痛みが酷くなったり、筋肉が硬くなってしまう。」というものがありました。
そしてこれは私自身も体験的に知っていることですが、筋肉繊維の走行に準じたマッサージをきちんと行わないと、「筋繊維を痛めてしまう。」ということになりますから、間違った手法でマッサージを行えば、人体に(特に筋肉や神経に対して)悪影響を与えてしまうということも当然理解しています。
近年、「整体院」と称して、全く資格を持たない者がマッサージを多くの人達に施しているようですが、ここへ訪れていただいた患者さん達の中には、無資格者のマッサージ施術を受けて、「背中の筋肉や腰の筋肉が逆に痛くなって酷い目に遭った。」といった話を何度も私は耳にしてきました。
きちんと資格を持たずにマッサージをやっているのですから、施療技術が未熟なのは仕方がないけれども、それは資格を持たない人のマッサージを受けてしまった側にも責任があるということにもなりますから、やはり事前に資格の有無をきちんと調べてから施術を受けなければならない・・・そういうことになるのかもしれませんね。
これは日本の法律にも問題があるんだけれども、無資格でマッサージをやっていれば本来は警察に届ければ「犯罪」として扱われる行為になるものの、無資格でマッサージを行っている人達というのは「職業選択の自由」という法律もあるので、店の表側に「マッサージ」という名目上の施療技術を表に出さなければ、どんな施術を行っていても「お店」が開けてしまう・・・という悪癖がまだ残ってるんですね。
もちろん、このような無資格者が行っているマッサージが社会に与えている悪影響というものは、施術を行っている人そのものの技術に関する意識の低さからも生じている可能性は当然あるのでしょうが、そこでマッサージを受けると「金銭的には安いから」といって、むやみやたらなところでマッサージを受けるのは、やはり危険なことなのかもしれません。
それはそれとして、マッサージというものは正しい手法で行えば、科学的にも「治療効果がある」という研究がこうして成されているわけですから、私達のように、公的な資格をきちんと取得してマッサージを行っている施術者が、日々施療技術の研鑽を行い、より一層の努力を続けながら多くの人達の健康に寄与していかなければならないなと、そう思うに至るわけです。
博士が言及された「今回の研究は、医療現場においてマッサージのような手技療法(manipulative therapy)の正当性を示す根拠となるものである。」という言葉は、各医療関係者の中でも、とりわけマッサージ等に関する不適切な不要論者に対する提言にもなり得るだろうし、マッサージの保険療養に対して、いまだに「医師の同意書」を求めている国の制度をもう一度見直し改めていく一つの提言であるとも言えるのではないでしょうか。
マッサージを受けると痛みの感覚が軽減されたり、疲れが取れて元気に戻れるのは、「マッサージによって筋細胞内でサイトカインと呼ばれる炎症性蛋白(たんぱく)の活性が減少し、新たなミトコンドリアの増殖が促進されるからだ。」といった研究成果を簡単に表現すれば、それは「炎症を抑制し細胞を新たに再生しながら身体の抵抗力を増すことができる。」ということに繋がるでしょう。マッサージには、そのような生体への変化を促していく力があるということです。
もちろん科学でそのような証明が成されずとも、これはマッサージを実際に受けてきた人達が自分自身の身体の感覚を通じて理解してきたことだと思いますし、理屈は後からいくらでもつけられるでしょう。ましてや東洋医学には「気・血・水」という根本的な考え方がありますから、「手当て」による人間の身体や精神に対する良き効果というのは、理屈抜きでも本来は成り立つものであって、気の入った施術、手当てには、そのような「気・血・水」を調整しゆく「何か」が存在するということではないかと感じています。そしてそれはある種の目には見えない人間の持つ根源的なエネルギー交流によるものかもしれないし、微細な細胞レベルの変化を促している物理的な関連性があるのかもしれませんね。
大切な事は施術する側である私達資格を持った施療家が、その正しい効果を促していく為に、これからもマッサージ技術を研鑽しながら、多くの方々の信頼を施療の中から得ていかなくてはならないということだと思いますし、様々な傷病に対してマッサージを行いながら施術効果を更に高めていくことで、まず社会に貢献していかなくてならない、そういうことではないかと私は思っています。医療の中におけるマッサージの有用性を更に高めていくことができれば、保険制度の中において「針灸マッサージ」の社会的な有用性によって必ず変革をおこすことができるのではないでしょうか。
今日はマッサージにおける治癒効果の科学的な実証から少しお話しをさせていただきました。(by 院長)