お子さん達の野球肘に関する初期異常への対応方法
肘を曲げたり伸ばしたり、回内、回外運動をさせると、「肘関節の辺りに異音がする=パキパキと音がする」とお子さんが訴えていれば、肘周囲の筋肉・腱などの疲労などによって機能が低下しているため肘の関節をしっかり支持できなくて関節へのストレスが生じていると言えるでしょう。
例えば、「肩こり」をする人であれば理解出来ると思いますが、日夜仕事などで首や肩周辺の筋肉が疲労をおこしている場合があるでしょう。そんなときに首を大きく回そうとすると、痛みは伴いませんが首の辺りで「パキッパキッ」と異音が鳴っている感覚を覚えることがあるはずです。
これは首の骨を支えている僧帽筋が疲労を起こし硬くなって機能が落ちているので、首の関節にストレスがかかっている場合に起こる一つの現象ですが、肘の場合もそれと同じで関節を支えている筋肉が疲労により硬くなっているだけでも、関節へのストレスが生じて動かすと異音が発生する状態になるわけです。
また野球肩ではインピンジメント症候群という障害がありますが、腱板筋機能の低下(インナーマッスルがきちんと働かなくなった状態)によって、投げるときに肩に異音が発生するのと同じ道理なわけです。
・・・・話を肘に戻しますが、しかしこの時点では肘を動かすと異音はするものの、まだ関節や筋肉に炎症を起こすには至っていないので、「ボールを投げてもバットを振っても痛くない」というお子さんが大半になります。
しかしその状態をそのまま放置していくと、そこからもう少し筋疲労が重なってきて関節へのストレスが増してくるので、初期異常時から数週間して肘に痛みが出てくる・・・といった状況経過が多いのではないかと思います。これは野球肘に至ってしまったお子さん達のお話を沢山聞いてきた中でも多かった現象です。
野球肘障害を防いでいく為に必要な要素を挙げれば、このような「関節の初期異常に対して、どのように対応するか」で、経過が大きく分かれていくことになると思いますが、今のところ「肘に痛みは無いけれど、動かしたときに異音がする」といったような段階で肘周囲の筋疲労をしっかり緩和させ柔軟性のある筋肉や腱に改善しておけば、経過は良い方向に向かうと言えるのではないかと思います。
ただし多くのお子さん達が、このような初期異常を自覚していても、まだ痛みが無かったために、親御さんや指導者さん達へ異常を訴えることが無かったので見過ごしてしまうのかもしれません。
横浜・多宝堂へご来院頂いてきたお子さん達の多くが、通常は「肘に痛みが出てから数週間~数ヶ月してから」ということもありましたが、患部が改善してからも、このような初期異常に関して説明しておくと、その後は割と早期に訪れて頂けるようになるので、野球肘障害を未然に防いでいく判断材料としては、「一つの有効な初期異常」と言えるのではないかと思います。
尚、お子さん達が、平常時に肘を曲げ伸ばしすると「痛み」があるといった段階であれば、まず1週間~3週間の範囲で、まず投げるのを休ませて経過をみては如何かと思います。肘周囲の筋肉や腱に炎症が生じているだけでも、肘の曲げ伸ばしで肘の関節付近に痛みが出てきますから、そのような状態であれば、まず「腕を使わずに肘をアイシングして経過を診る」というのが初期対応としてセオリーになります。
アイシングというのは、氷嚢に氷を入れたもので、関節や筋肉を冷やすことですが、それは「肘関節周囲の炎症を軽減させる目的で行う治療」ということになります。シップを張って炎症を抑制するよりも、氷で冷やしたほうが、だんぜん炎症抑制には効果が上がるからです。
肘に痛みが出てから最低3日間~5日間アイシングを続けても、肘の曲げ伸ばしで痛みがまだ残るようなケースがあれば、まずスポーツ整形外科で画像検査を行って貰い、肘の関節を構成している「骨」や「軟骨」、それから「内側側副靱帯」や「尺骨神経や正中神経」に異常が無いかどうかを確認しておいた方が良いでしょう。これは成長期のお子さん(小学校4年生~中学校3年生まで)に関する対応の中で必須項目に入れておくべきです。
その上で、もし「特に何処にも異常は無い」と先生から診断があった場合であっても、肘関節周囲の軟部組織に炎症が起こったことで筋肉・腱に柔軟性が無くなってしまうケースがありますから、そういった場合には早期にマッサージやハリ治療を施していくことで、ただストレッチを行ったり、湿布を張って休ませているよりは当然、筋や腱の組織が早く回復していきます。
そういった点から横浜・多宝堂で行ってきたコンディショニング施療(スポーツマッサージ、鍼治療等で行うコンディショニング法)が、その後の肘の良い状態をキープできる為に、多くのお子さん達から支持されてきた・・・ということになるでしょう。
このような痛みを伴った状態で「アイシングだけを何週間も行ってきた」といったお子さんも数名いらっしゃいましたが、それでは反対に逆効果となってしまい状態が更に悪化してしまう場合がありますから注意が必要です。
「冷やしすぎ」・・・は、余計に患部を悪化させ、完治するまでに時間がかかってしまう根本的な元凶となります。何故なら関節周囲の血行悪化を招くからです。炎症の状態に応じて「冷やすのか・温めるのか」を判断していかなければ、患部の状態は早期に改善させられません。
プロ野球のトレーナーとして仕事を行ってきた中には、そのようにして野球選手達の関節障害を未然に防ぐ努力というものもあったわけですが、もちろん、これは私自身が治療院を開業してから約5年が経過しますが、野球肘を抱えられたお子さん達に施してきた治療の中から得てきた、「成長期の肘の初期異常」として、まずそこから判断することでお子さん達の野球肘障害を拡大させずに済んだケースが数多くあったわけです。
それから一度でも病院で「肘の関節面の軟骨に障害が発生している」と診断を受けたことのあるお子さん達のケースでは、日常的に痛みが無くても肘の曲げ伸ばしで「関節に異音がする」ということが多いのではないかと思いますが、これは「変形性肘関節症」といって、関節の整合性が悪くなっている為に起こっている現象ですから、このようなお子さん達のケースでは、関節に異常の無いお子さん達よりも、一層、普段からのケアやコンディショニングに気を使っていかなければ、いずれは「関節の変形が進むことで、肘を完全に伸ばせなくなったり、曲げられなくなる」ことも当然考えておく必要があります。
それに伴って肘に炎症を頻繁に起こしていくケースも出てきますので、「痛み=炎症」と、まず察知して初期対応としてアイシングを肘にしっかり行っていくことと、炎症の後遺症状として筋肉・腱の柔軟性に問題が生じていれば、横浜・多宝堂で行っている手法で治療を行っていけば状態を改善していくことができます。
また肘の関節を強化する目的で行うトレーニングやリハビリに関してよく質問を受けますが、必ず「痛みの無い肘の状態で行う」ということが大切になります。何故なら早期に肘を動かすことで、炎症を長期化させてしまったり、痛みをそのまま放置していけば、「慢性疼痛=痛みがクセになった状態」に陥りますから、その状態が固定されてしまえば、長期に渡る不安定な肘関節痛の原因となってしまうからです。
痛めた状態の関節や一度酷い痛みを自覚した関節に対しては、トレーニングやリハビリを行う場合、そういった「炎症」や「痛み」を無視して行っていけば、必ず「関節を壊す原因」にもなります。関節が壊れてしまえば「手術」するしか治す方法はありませんが、手術をした関節というのは、異常の無かった頃の関節よりも「耐久性」が落ちてしまいますから、当然、その後に炎症が生じやすい肘関節、疲労を起こしやすい肘へと変貌してしまうということです。
この「関節の耐久性」の問題というのは、複雑なテーマとなりますが、手術を受ければ、また投げられるようになる、バットを振れるようになるといっても、その後の経過を知る者としては、やはり「未然に防ぐ」ことが一番大切だし、その方が長きにわたってスポーツを快く続けられるということなのです。その為には、上記に綴ってきたような詳細な事柄や経過をその都度判断しながら、お子さん達の関節障害を拡大させないことが一番大切なわけです。
今日は野球肘を例にして、関節障害を防いでいく対応方法や指標・考え方、また痛めてしまったお子さんたちへのコンディショニング方法について綴らせて頂きましたが、まだまだ詳細については書ききれておりませんので、いずれまたこちらのブログの方で綴ってみたいと思います。
それでは。(by院長)