高血圧・低血圧を改善する鍼治療の手法と体感
低血圧だ・・と病院で診断を受けて日常的にお薬を常用している方々の中には、「朝 調子が良くない」とか、「いつも首や肩が緊張していて疲れる」とか、「普段から立ちくらみがある」だとか、「春先や夏場に身体の調子が悪い」とか、「手足がしびれる」、また「気分が落ち込みやすい」「イライラ感が出てくる」などのような、多くの症状を訴えられています。
本態性低血圧症が要因だと思われる、このような様々な症状を訴えてご来院頂くケースでは、わりとスマートで小柄な印象を受ける30歳代以上の女性達に多いのが特徴で、たまに子供さんの中にも、そのような低血圧が要因だと考えられるケースもありましたが、その多くが「女性を中心」にご来院頂くことの多かった疾患になります。
また、高血圧だ・・・と病院で診断を受け、日常的にお薬を常用している方々は割りと中年以降の男性や女性にも多く、「冬場になると調子が悪い」とか、「普段からフラフラすることが多い」とか、「ときどき頭痛がある」とか、「手足が浮腫んだり冷える」とか、「たまにイライラしやすくなったり精神的に落ち着かなくなったりする」などのような、多くの症状や憂鬱な気分をご来院の際に訴えている方々が多いのです。
本態性高血圧の方々の中には糖尿病を併発していらっしゃる方々も多くて、そのような場合には普段から「肩こり、首こり」を感じていたり、「慢性的な腰痛」があったり、「足にシビレ」を感じていたりすることも多く、多岐にわたる症状全ての要因の中に、根本的な疾患である「高血圧」の問題を感じないわけにはいかない・・・ということをずっと考えてきました。
「本態性」という言葉を辞書で引いてみると・・・・
「本態性(ほんたいせい)とは、疾患の原因が明らかではないという意味。「特発性」とほぼ同義。本態性高血圧症、本態性低血圧症、本態性自律神経失調症などがその代表例。
医学で、ある症状・疾患は存在するが、その原因が明らかでないものであること。
・・・といったような説明があります。要するに「西洋医学では原因が特定できない疾患や症状」ということです。
低血圧や高血圧と診断を受けたものの、諸検査で器質的原因が特定出来なかった方々は、様々な身体的・精神的症状を感じているにも関わらず、「病院では原因が判らない」けれど、血圧を調整できるお薬を病院から継続処方して頂きながら「症状の軽減・緩和」を目指している・・・ということになるのでしょう。
このような本態性低血圧・高血圧の方々を東洋医学的な視点で診ていくと、「実証」「虚証」という視点がまず第一に浮かんできます。
「実証」を一言で説明すると・・・「多い、有り余っている」
「虚証」を一言で説明すると・・・「少ない、足りない」
ということになります。
実証・虚証というのは、共に東洋医学における人間の体質的な視点・診方となりますが、それ以外にも臓腑(ぞうふ)からの視点があって、特に人間の血液循環統制に関する臓腑には、おもに「心、肝、脾によって司られている」と昔から教示されています。
これらの臓腑に関連しているツボの流れを「経絡(けいらく)」と私達は呼んでいますが、この経絡は人間の体表(身体の表面)を流れている・・・ということになります。
この体表面にある血液循環に関連するツボを刺激して「血圧を上げたり下げたりする」ことが可能になっているのですが、その中でも一番有名なのが、首の前側部にある「人迎(じんげい)」というツボに刺鍼して「血圧を下げる」というものです。また「上天柱(かみてんちゅう)」に刺鍼すれば「血圧を上げる」ことが出来ると云われています。(それ以外にも上肢・下肢・体幹における自律神経反射に関連する各種ツボもあります。)
これらのツボに鍼を打つ・・・ということを一番簡単に説明するならば「外部刺激によって自律神経を調整する」ということになりますが、鍼治療の有効性の中でも、血圧調整というのは根幹を成す健康法的な要素も強いと感じてきました。
「血圧を上げているのは交感神経」
「血圧を下げているのは副交感神経」
・・・というように、人間の体内で血圧を調節しているのは根本的に自律神経が大きく関与していますから「交感神経を刺激して活発になれば血圧が上る」「副交感神経を刺激して活発になれば血圧が下がる」のは当然としても、自律神経というのは本来、人間の無意識下によって統制されたものであって、それを人が意識的に調整するのは困難ですが、鍼治療はそれを可能にしてきたのです。
もちろん鍼治療の効果の中には「痛みを鎮める働き」や「筋肉の緊張を和らげる働き」もあります。しかしご来院頂いた皆さんからお聞きするご感想の中には、「痛みも取れたけれど、疲れやだるさも楽になった」とか、「何となく気分がイライラしていたのに心が落ち着くようになった」とか、「夜 寝つきが良くなった」とか、「日頃の疲れをあまり感じなくなった」といったことをお伺いすることも多く、やはりそれはクライアントさん達の自律神経系の働きがより活発になったからだと感じます。
実は本態性の高血圧や低血圧というのは、日常的な肉体的・精神的ストレスであるとか、運動不足や休養不足、それから食事の内容によっては体質が偏ってしまって、体内の自律神経が上手く統制出来なくなっているような方々に多いのも事実ではないかと思います。
またお薬の長期間にわたる服用によって副作用なども心配されていますが、「原因が判らない」・・ということは、人の体質的・恒常性の問題・異常であることも多く、その根本的なものに目を背けてしまえば、新たな疾患を作り出す元凶になっていくケースもあるということを感じながら、今日は本態性の高血圧や低血圧についてお話してみました。(by 院長)