痛みの本質/心身医学と筋・筋膜性疼痛症候群
あらゆるスポーツ障害に関する痛みや、一般の方々が訴えられる首・肩の痛み、または腰痛など筋骨格系や軟部組織等に由来する痛みというのは「人の心と相関するものである。」とした考え方は1960年代に心身医学界でも既に発表されています。
現在の西洋医学の中でも「痛み」に対する治療が投薬や外科的手術療法によって完治するものもあれば、慢性疼痛のように、なかなか痛みの完治に結びつかないケースは多く、とりわけ整形外科領域で取り扱われてきた傷病の中でも、頚椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニアなどは、MRI画像上でヘルニア突出が視認されても、実際には痛みが誘発されていないケースがあったり、その反対にヘルニアがMRIで視認され、その為にヘルニアの切除術を受けたにも関わらず、その後に腰痛再発を繰り返すような患者さんも存在しています。
そういった根本的な痛みの原因や解決に関する相反した学術的見解も生じており、保存療法による解決が最良か?それとも手術を選択するのか?といった分岐点に至った場合、痛みを抱えたそれぞれの患者さん達の治療法に対する迷いもそれ相当数認めています。
「できれば手術はしたくない。」
それが通常人の考えであり、そういった患者さんの多くが「痛みの解決」を求めて、ここ横浜・多宝堂にご来院されてきたわけですが、今のところ、鍼灸治療・マッサージ治療を主体にして施療を行ってきた患者さん達がその後に手術を受けた・・・という確認は一つもありませんでした。(尚、明日手術の予定が入っている・・・といった方もお見えになりましたが、その後どうなったのかは解りません。)
即ち、たとえヘルニア症と病院で診断を受け、手足の感覚異常や神経痛が症状として確認された場合であっても、鍼灸治療・マッサージ治療を主体に施療を行ってきた患者さん達は、その後に「痛みの消失」を体験できた・・・ということになります。
それでは一体、ヘルニアの患者さん達がなぜ?ここで行っているような物理的な外部刺激によって、痛みが完治へと至るのでしょうか?
それは現在の整形外科領域で行われてきた精査(MRI、MRA、CTなど)では、判断しようの無い「痛みの本質」というものがあるからではないか?と私自身は強く感じてきたのですが、またそれと共に人が感じている痛みの多くは、精神的な緊張状態、日頃からの慢性的なストレス、肉体疲労などにあわせ生じているような「筋・筋膜性疼痛症候群」というものが、大きく関与しているからではないか?ということも当然考えてきました。
横浜・多宝堂ではトリガーポイントにおける鍼通電療法も行ってきました。またそれ以外にも多くの患者さん達の痛みの解決に対し、様々な手法によって挑んできたわけですが、いわゆる「筋挫傷」にも「捻挫後遺痛」にも「慢性的な打撲痛」にも同様の傾向があって、傷めた患部以外の部位にも他覚的な症状を認めてきました。
また神経痛、感覚異常など神経的な症状を訴えておられる様々な傷病に関しても、このトリガーポイント鍼通電療法は非常に効果をあらわしてきましたが、ここでも筋・筋膜性の疼痛由来というものが根本的な痛みとの関わりであったのではないか?と思われるようなケースも非常に多かったのです。
もちろん慢性的な痛みというのは、脳からのフィードバック現象として、「痛みの記憶」から生じているケースも多々あるでしょう。しかし鍼通電治療ではゲート・コントロールや脳内におけるβエンドルフィン(脳内モルフィネ様物質)の湧現等により「脳への一時的な痛みの遮断」が短時間の中でまず行われ、鍼治療後におけるその後のマッサージ療法によって、痛みにより慢性化してきた筋・筋膜性由来の緊張性疼痛が徐々に緩和をすることによって、二次的に発生していると思われる機能的な痛みの増幅も二段階的な治療手法によって、良い方向にコントロールすることができたのではないかと私は常々感じてきました。
特に坐骨神経領域における酷い痛みを訴え「腰部椎間板症」が由良である・・と整形外科で診断されてご来院された患者さんのケースでは、自覚痛領域や圧痛領域をまず丹念に確認してから、その日その日の状態に合わせ継続的に鍼通電療法を行っていくことで、その後に大きな痛みの改善をみせていくのですが、このようなケースでは「梨状筋症候群による痛み」が発生しているだけで、実は腰椎椎間板症由来じゃないのではないか?といった疑問もありました。
いずれにしても、整形外科領域の診断は診断として、「人間の身体の構造的異常がそのまま痛みに関連していないケース」は「必ずある」のであって、すべての痛みを検査画像によって認知することはできない、若しくは関連しないケースもある・・・そう想定しながら、日々の施療を行わななければ改善しないようなケースも多いのです。
人間には自然治癒の力が働いています。その治癒に至る諸元とは、やはり「心身相関の原理」から一歩も外れることはない・・・それだけは言えるのではないかと思います。それは「脳が心を司っているのか?」それとも「心が脳を司っているのか?」といった哲学的部分も含まれた考察が根底にあって、すべてが目に見えるものだけで真の解決には至らない場合も有る・・ということではないでしょうか。
実は西洋医学も東洋医学も同じ傷病解決の手法であって、それらの医学的手法が同じ土壌で手を携えながら「患者さんを癒す」ことに全身全霊を傾けられる体制が出来上がれば、本来はそれが真の日本の有意義な医療体系になるはずだ・・・そう思っているのは、きっと私だけではないはずです。まず鍼灸療法を同じ医療の土壌に引き上げていくためには、私たちがどうすれば良いのか?それを一度考えてみる必要があるだろうし、やはり医師達にもその責任があるのではないかと私は思っています。
有意な先生方は鍼灸同意書を出し、そうではない先生もおられるようですが、それがもし恣意的なものであるならば、それは患者さんに対する医療への自由選択意志に反する行為であり、それと同時に西洋医学と東洋医学の断絶を増幅させてしまう行為ではないかと感じます。患者さん達の抱える痛み・苦しみに対して、西洋医の皆様には真の懐の深さやご理解を見せて頂きたいものです。鍼灸治療に関する保険療養というものをこの日本国は国民に認めているのです。そのことを西洋医学の医師の方々がすべてにおいて人知して頂ければ、多くの患者さんの助け舟になるはずです。(By 院長)