野球肘・離断性骨軟骨炎の対応方法
一般的な名称としてよく知られている野球肘障害の中には「リトルリーグ肘」と呼ばれるものがあります。これは肘関節の内側や外側にある骨軟骨部分の突起(先端部)が剥がれてくる障害です。
病院を受診して医師の診断を受けると外側型野球肘では「離断性・骨軟骨炎(りだんせい・こつなんこつえん)」、内側型野球肘では「上腕骨内側上顆裂離骨折」、後方型野球肘では「肘頭骨折」といった名称(診断名)で呼ばれています。
この離断性骨軟骨炎という障害に至ってしまうと、障害の初期段階でも「約3ヶ月から半年の経過観察=投球禁止」が告げられ、中期~後期の段階に至ると、「約1年若しくは1年半の経過観察=投球禁止、若しくは手術の選択」を迫られることが多くなります。
この障害は初期段階では肘の軟骨部の剥離(はがれる・・ということ)部が微小状態なので、約3ヶ月から半年で患部の状態が良好になり、投球時の痛みが沈静化する傾向にある・・・と言われており、中期から後期の状態になると、「剥離した軟骨がはがれたまま」になってしまい自然骨癒合しなくなる可能性が高く、現状で時間をおいても痛み無く投げられるようにならない状態が続くだろう・・・とドクターが判断を下せば「手術」を勧められることになります。
これまで横浜・多宝堂でも投球・骨軟骨障害に関するご相談を数多く受けており、お子さん達の野球肘の改善経過を診ながら、臨床例の中から特に有効な手法・方法論も見出されてきましたが、その前に、まず現在、リトルリーグ肘(離断性骨軟骨炎・剥離骨折)と疑われた場合に注意しなければならない点をあげつつ、皆様からのご相談のケースを元に少しここでお話ししてみたいと思います。
ケース1)
近隣の病院でレントゲンを撮ってもらい、医師からは「特に骨には異常が無い」と診断され、その後にある接骨院で検査を受けたら「軟骨の先端部分に歪みがある」と言われ治療を続けていましたが、一応、病院の先生から約3週間ほど投げるのを辞めるように・・・と言われていたので、休ませてからまた投げ始めてみるとまだ「肘に痛みがある」と子供が言っているのでどうしたらいいか困っています。
見解1)
このようなケースでは、その後に他の病院で精査(MRI)を受けさせてみると、「肘関節面の骨軟骨剥離」が認められた・・・といったケースもありましたが、やはり個人医院ではMRI検査機器が無い場合も多いので、レントゲン撮影画像から診断をしており障害初期段階を見落としやすい傾向にあるのかもしれません。
肘・離断性骨軟骨炎のレントゲン撮影に関する注意点とMRI検査、CT検査について撮影技師の方のブログ投稿がありましたので、そちらのご意見も併せてご閲覧してみると良く理解できるのではないかと思います。⇒外部リンク
またその反対に「肘の軟骨が剥がれている」と病院で言われたが、2週間くらい投げるのを休ませていたら「もう肘に痛みが無いから・・」と、子供が投げたがっていて、病院を受診すれと先生からは「まだ投げてはダメだ」と言われ、どうしたらいいのか困っている・・・といったご相談もありました。
こういうケースでは、まず初期段階で肘関節の詳細な検査をしっかりと受けておくべきで、超音波診断やレントゲン画像診断にも、やはり盲点は存在するので、まずMRI検査を受けた上でスポーツ整形外科医師からの診断によって、その後の方針をきちんと固めておく必要があると思います。
そうでなければお子さんの日々の痛みの自覚症状に振り回されることになるので、それでは親御さんの方が大変です。お子さんたちのスポーツ障害克服の為には、まず「正しい診断方法を求めておいて、その後の安全確実な方針を固めておくこと」が一番大切なことなのです。その方が親御さんもお子さんも安心できるはずです。
ケース2)
MRI検査を受けたら「肘関節面の骨軟骨剥離」がある・・・と医師から診断を受け、「約3ヶ月から半年の投球禁止、若しくは経過観察が必要」と言われたのだが、もう少し早期に回復させられませんか?
見解2)
障害初期段階ではこのようなアドバイスを病院で受けるケースが多く、ボールを投げたくても投げられないお子さんを不憫に思う親心の上からなのか、実際このようなご相談を数多く受けます。
臨床例の中には、「約半年から1年の投球禁止」とアドバイスを受けていたお子さんが、約1ヵ月半から2ヶ月以内に投球を再開させることが出来たケースもあります。もちろんこれは好条件がすべて揃った上で結果的に早期回復を遂げたのものですが、なかにはそういうケースも「ある」ということです。
もちろん病院での定期検査によって肘の骨軟骨部の状態をしっかり確認しながら、横浜・多宝堂でも経過を診させていただき、そのうえで適切な施療を行いながら、医療機関で最終的な「投球のGOサイン」が出てからお子さんにボールを投げてもらう・・・ということになります。
医療機関によってはお子さんたちの野球肘を慎重に診断を下しアドバイスをしています。だから「最大の安全策を配慮すればこそ、投球禁止期間はやや長めに告げておく」ということだと思います。
しかしどれだけ投球を休んでいても結果的に患部の状態が良くならなければ「手術を選択しなければならない可能性」もあるわけですから、その上でも慎重派の医師達は「なるべく手術は避けてあげたいので保存期間を長めにとって経過観察しよう」と考えているからなのかもしれませんね。
こういった投球再開時期に関して疑問があるような場合にも、障害初期における精査画像(MRI画像)やレントゲン撮影画像(XーP)を元にして、セカンド・オピニオン(他の医療機関・先生に相談してみる)へ相談するのも一つの方法ではないかと思いますし、実際、医療機関が変わると「投球禁止の期間が変わるケース」もあります。
やはりお子さんの肘関節の状態如何によって適切な方針を固めていくべきであり、それが一番投球再開時期を早められることに繋がると思います。
ケース3)
病院の診断では「手術しか治る道はない」と言われたのですが、本当に手術をしないと治らないのでしょうか?できれば手術は避けたいのですが・・・。
見解3)
これは非常に難しい問題です。ただ状態によっては「手術した方が早期に投げ始めることが出来るケース」もありますし、「ある一定期間、肘を休ませたら、その後に全く痛みを感じなくなったケース」が、「どれくらい認められるのか?」という統計データが揃わなければ何とも言えない・・・ということです。
受診した病院には「データが揃っているか?」ということも、その後の判断を分ける大きな材料となるでしょうが、やはり半年から1年を経ても状態が改善しないケースであれば、医師の診断に従って手術を受け、その後のスポーツ・リハビリを早期に始めたほうが、速やかに改善する可能性が高いのではないかと思います。
ただしプロ野球選手の中には「これは明らかに10代の頃、肘の骨軟骨剥離を起こしていて、当時は少し痛みがあったはずだけれど、現在は全く痛みが出ない」という選手を確認してきました。
どういうことかと言いますと、「はがれた軟骨部が偽関節様に固定しているので痛みが全く出ない」のです。しかしこれは非常にまれなケースで、普通は剥がれた軟骨が関節内に遊離する、いわゆる「関節遊離軟骨=ねずみ」となって痛みを誘発させるのですが、この選手だけはそうならなかったのです。非常に不思議な事例ですが、そういうケースも「ある」からとても難しい問題だと思います。
昔は骨軟骨剥離になって投球時に痛みがあるにも関わらず、そのままボールを投げ続けていたか、まだ医療機関でも手術対応が出来なかったからだと思いますが、そのような選手の方が多かったのです。
そういった選手達がプロ野球球団に入団してきてから「関節遊離軟骨=ねずみ」を抱え、遊離軟骨除去手術を受けるケースも非常に多かったわけで、そういう点からすると「現在、肘に骨軟骨剥離があったとしても、ある時期を通り過ぎれば痛みが沈静化する可能性もある」ということになりますが、やはりその後に「遊離軟骨除去手術を受けなければならなくなる可能性は高くなる」とも言えるので、早めに手を打っておくのが良策なのか?そうではないのか?という点をもう一度考えてみる必要があるかもしれません。
もちろん手術成績は上っているのですから「速やかに処置を施してもらい早期復帰を目指す」のも、一つの道ではないかと考えています。
ただし手術をした場合には、その後のリハビリをしっかりと行いながら、投球フォームの改善・普段からの投球数の管理、投げ初めてからの肘に対する日頃のケアをしっかり継続しながら、一定の期間がくるまで慎重に対応していく必要があります。
要するに「手術をしたからもう大丈夫」・・・ではない、ということであり、術後リハビリ期間を含め、その後の対応が最善であればこそ、それだけ投球再開の時期を安全に迎えることができる、そういうことです。
ネット上などで「○○によって野球肘の痛みがウソのように消える」・・・といった一部の施術家自らの喧伝を見て、ワラをもすがるような思いからそれを頼ったことで、結果的には誤った判断をその後に招いていてしまったようなケースも見受けましたが、野球肘に限らず「関節の構造的な異常によって痛みが出ているケース」もあれば、「構造的な異常があっても痛みが出ないケースもある」・・・ということをまず頭に入れておき、ある一定の期間、肘に負担をかけなければ自然に痛みが引いてくる状態があれば「ストレッチ程度の療法」でも治ってしまうものなのです。
ですからそういったトリックには惑わされないように気をつけて欲しいものです。(医療機関によっては誤診もあり得る・・・ということも一応頭に置いておくべきでしょう。)
投球時に痛みが出て、最低2週間から3週間投球を休んでから、肘関節のテストを行い、特にその時点で問題や異常が無ければ、ボールを今までどおり投げられる事も多く、肘関節に全く問題が無いと判断できれば「肘関節周囲の軟部組織の炎症だったのではないか?といったケース」も少なくありません。
ところが実はそのような時期(急性期=炎症が強くて痛みが顕著な時期)に肘を休ませずボールを投げ続けていたり、試合でピッチングをしてしまったり、バットを沢山振ったり、腕立て伏せや鉄棒で懸垂などをして肘に負担を多くかけてしまうから、それが結果的に「軟骨がはがれてしまう根本的な原因」になってしまうのです。
やはり中学3年生くらいまでは、肩や肘を傷めたら(お子さんが投球時に痛みを訴えたら)、チーム内で2週間~3週間は投球やバッティング、腕の強化などを休ませる・・・といった方針をまず固めておくべきでしょう。
そしてその休ませている期間中に、肘関節に関する諸検査など確認すべきことをしっかり確認させ、投球関節障害を拡大させないことが一番大切な事であり、また日頃からチーム内でお子さんたちへの肩や肘の関節に関する「メディカル・チェック体制」をしっかり敷いておくことで、野球指導者も安心してお子さん達を現場で指導できるのではないかと思います。
プロ野球界でも年に一回は必ず選手達の肩や肘、それから腰や膝、足首などのレントゲン検査を受けさせたり、1年以内に問題があった部位(痛みがあった関節など)に関する精査(MRI検査など)を受けさせながら、選手達の身体的な問題や異常を事前に察知することに努めています。
また日本臨床スポーツ医学会は「青少年の野球障害に対する提言」の中で、小学生は全力投球1日50球以内、試合を含めて週200球の投球を超えないこと・・・としています。その点は指導者・親御さん達で一度話し合っておくことが大切だと思います。
尚、離断性骨軟骨炎を予防する上で言えることは、鍼治療は骨癒合を促進させる働きや血流障害を改善する効果があるので、離断性骨軟骨炎の根本的な問題へアプローチすることができますし、当然「野球肘の予防法」にもなります。(ただし急性期にはハリを行う事が出来ないので、肘の状態をまず見極めながら行っていく必要があります。)
また手術後の病院でのリハビリ期であれば、同時に併行してハリ治療を行っていく事で、関節可動域の改善や術部付近の浮腫改善が早期に認められるので、そのような経緯によって投球再開時期を早めたり、投球再開後に良い状態を持続することに繋がっています。
実際に離断性骨軟骨炎と診断を受けたお子さん達の投球禁止時期にハリ治療を行ってきましたが、非常に経過も良くて、90%以上の確率で保存療法によって投球再開していますし、なかには「半年から1年は投球を休みなさい」と病院で診断を受けたケースであっても、約2ヶ月で投球再開できるほど改善を見せていたお子さんもいましたが、これは好条件がすべて揃っていたからではないかと思います。
プロ野球選手達の肘関節・手術後におけるリハビリ期間においても、球団専属トレーナーによるハリ治療やマッサージによって術部の治癒を促進させ、投球再開時期における違和感や痛みなども同時に改善させていきながら、最終的には選手達を再びグランドへと戻していますが、近年研究されてきた軟骨再生医療が進展し、このような軟骨障害が起こったとしても、比較的容易に治癒させることができる時代が来るのもそう遠くはないでしょう。
しかしまず現時点においては障害予防や障害拡大を防いでいく意味においても、離断性骨軟骨障害に関する正しい対応とは「医療検査を受けた上で早期に診断を受けて、その後の対応を決定すること」に変わりはありませんし、成長期のお子さんに関しては早急な対応が求められるはずです。
軟骨再生医療について
上記外部リンクに示されているような軟骨再生医療が様々な軟骨障害に対応出来るようになれば、きっと多くのスポーツ選手達にとっても大いなる助け舟となるはずですが、早くそのような状況になればいいですね。(by院長)