少年期の野球肘を治す(1)小5・投手のケース
小学校5年生・男子
<野球歴>
* 小学校1年生より軟式野球開始、現在のポジションは投手及び外野手
<経過>
* ボールを投げるときに肘関節の内側が痛む
* 2週間前、近隣の整形外科を受診/レントゲン検査で骨に異常なし
* 冷湿布及び鎮痛消炎剤による経過観察
* 2週間の投球禁止の指導・2週間後に病院再診
<主訴経過及び投球頻度>
* 1ヶ月前よりボールを投げると、たまに肘の内側に痛みが出る
* 1週間前、試合で先発ピッチャー/5回まで投げ、6回途中で肘痛あり交代
* 投球頻度→約300球/1週間、試合時の投球/80球~150球程度
<現在の肘の状態>
* 肘関節の可動域制限あり(伸展:健側差-10度、屈曲:健側差-15度)
* 肘関節内側上顆部に圧痛あり、運動痛あり(主に肘伸展時の痛みあり)
* 肘関節内側部へのストレス痛あり
* 内側靱帯部ストレス痛なし
* 尺骨神経脱臼所見なし
* 握力低下/ややあり
* 前腕回外運動/硬さあり
<施療>
* 施術内容:鍼パルス通電療法、スポーツマッサージ、関節マニュピレーション、その他(肩甲胸郭関節の可動性を状態改善)
* 施術時間:1回約1時間程度
* 上記施術:1週間に1回施療継続
* 3週間でほぼ状態改善
<改善後の肘の状態>
* 肘関節の可動域制限なし
* 肘関節内側上顆部の圧痛緩和あり、運動痛なし
* 肘関節内側部へのストレス痛緩和
* 内側靱帯部ストレス痛なし
* 尺骨神経脱臼所見なし
* 握力低下/やや緩和
* 前腕回外運動制限なし
* 上記緩和状態を確認後/投球動作確認→肘関節痛ほぼ緩和
<改善後の運動経過>
* 治療終了後、2日後より投球再開(15m~20m以内×30球・60%の力で投球指標)
* 3日投球継続で1日ノースロー
* 現在の距離で投球強度を徐々に上げる
* 投球再開から3週間/20m~30m以内×50球・投球強度90%指標
* 投球再開から1ヶ月/30m×70球(全力投球は20球程度)・投球強度100%指標
<投球リハ再開後の肘の状態>
* 投球リハ開始から2週間後に経過観察のため再来院
* 現在、20m×40球・投球強度80%程度までで肘の状態経過良好
* 肘の状態、やや前腕・上腕部全般に筋緊張認めるが施療後、状態緩和
* 投球リハ開始から1ヵ月で試合復帰(ポジション・ファースト)
* 試合復帰から1ヵ月後にピッチャー再開
* 初診時から3ヶ月後に再来院・肘の状態に異常なし
* 1年経過後に再来院・肘の状態に異常なし/その後もピッチャー継続中
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今回は小学校5年生・男子で軟式野球を行っているA君の投球野球肘障害の治癒経過に関してお話ししてみましょう。
今回、A君の野球肘のケースでは、一番初めに受診された整形外科におけるレントゲン検査で骨傷(骨の異常)が無く、肘の関節に関わっている筋肉・靱帯・腱などの損傷も無かったわけですが、「関節の可動域の異常」や「患部の圧痛・運動痛」だけが認められる状態でした。
これは野球肘の中でも割と軽度の障害となります。
横浜・多宝堂で治療を開始後、約3週間でA君の肘の状態は改善したわけですが、A君がチームでピッチャーをやっていること、それから肘が痛くなる以前には週に300球前後の投球を続けきたことなどから、投球を再開する段階に投球リハとして指標を設けさせていただきました。
これは野球肘や野球肩の状態が改善し、その後に投球を再開する場面では一番大切なテーマとなってきます。
* 投球距離×投球数×投球強度 & スケジュール・日程
上記の投球要素をどのようにプログラム化し、それを現実の上で行っていくのか?というのは、そのお子さんが野球を今後続けていく上で、お子さんそれぞれが環境的なものに違いがあるので一概にこうすればよい・・・とは言えない現状もあるでしょう。
プロ野球の世界には、私達のようなスポーツ・トレーナーがいるので、毎日故障した選手のリハビリ経過を見ながら記録しておき、また選手の肩や肘などの状態を詳細にチェックしたり治療を行ったりしていますから、投球リハビリ・プログラムを実行している最中でも、患部に異常が発生するようなことがあれば、必ずそこで投球リハの内容に変更等を加えながら、選手達の経過を良好な状況に差し向けることが可能になっています。
ところが少年野球チームの場合には、土曜日・日曜日にしか現場の指導者さんから投球指導を受けられなかったり、若しくは投球リハの経過を見て貰えない場合もありますから、お子さんに上記のような投球指標を指導しても、なかなかそのような経過が追えないケースも多いのが現状です。
今回、A君のケースでは、お父様がチームの監督さんだったこともあり、休日以外の平日にも、きちんと投球リハの経過を追っていただきましたので、当然、A君の野球肘は良い経過を辿って、その後に試合復帰、またピッチゃーとしても復帰されました。
このように野球肘の状態改善というのは「治療によって痛みが無くなる」ばかりでは無く、その後の「投球リハビリ・プログラム」をどのようにして行っていけば良いのかを私達トレーナーと指導者さん(若しくは親御さん)とで、しっかり連携が取れる状況があって、それが一番お子さん達の肩や肘をその後に安全に回復させられる環境となっていくことは間違いないと思います。
もちろんその途上には、「正しい投球フォーム」「肩や肘に負担のこない投げ方」というものや、「お子さん達の肩や肘の状態を正しく認識する」ということも当然必要な要素になってきます。
以前、あるお母様から電話相談が入り、野球肘に関して詳細なご質問を頂いたこともありますが、そのように親御さん自らが自分のお子さんの野球肘を治してあげたい一心で、それこそ30分でも1時間でも私の話を聞きながら、その上でお子さんへの施療内容やその後の復帰時期などの予測等まで幅広いご質問もいただいたわけですから、私は本当に驚きを隠せなかったものでした。
しかしそのような心がけを親御さんがしっかりもっていれば、お子さん達の野球肩や野球肘は絶対に良くなるし、その後のお子さん達の資質も大切に守られていくのではないでしょうか。
今回は小学生の野球肘における経過観察や施療、それから状態改善後の投球リハビリ・プログラム等について、簡単ではありますが「小学校5年生・投手A君の野球肘」のケースを基にしながら今日はお話しさせていただきました。(by 院長)