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アイシングの慢性障害・急性外傷に対する手法と処置・対応

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今日はアイシングについて日頃からクライアントさんにご質問をいただく場面も多いので、それらについてここで簡単なお話をしてみたいと思います。


「アイシング」というのは、「冷やす」という意味ですが、プロ・スポーツの世界では日常的に慢性的な障害・・・つまり「筋肉や腱、靭帯部、それらに関わる関節の炎症などに対するケアの目的」で行う場合と、「急性外傷」・・・つまり筋挫傷(肉離れ)、捻挫、打撲、亜脱臼などの場面で行われています。

しかしそのアイシングの方法や時間などにも様々な考え方があり「アイシングの功罪」については諸外国でも賛否両論あるようです。

たとえばプロ野球のピッチャーがアイシングを行う場合を考えてみましょう。

まず先発や中継ぎ、抑えの投手では一日の投球量(ボールを投げる球数)がまちまちです。先発であれば多いときには160球から200球、中継ぎや抑えの投手になるとゲームで登板しない日でも30球から60球を投げブルペンで肩を作っています。キャンプになれば当然沢山の投球練習を行いますので、ピッチャーの肩や肘関節に対するアイシングの頻度は当然多くなります。

通常、肩へのアイシングは20分~30分程度、肘へのアイシングは10分~15分です。心臓から遠ければ遠いほどアイシングの時間は短くなりますが、それは体の末梢(手足の先)に行けばいくほど、「血液の戻りが悪くなる」からです。

アイシングの目的にはいくつかあって、一番はじめに挙げたような「炎症に対するケア」謂わば、「抗炎症効果」を求めて行う場合や「局所を冷やし終わった後の血流促進作用(ポンプ効果)で疲労回復を早める目的」で行っていますが、この疲労除去の促進に関しては外国のあるチームが行った研究によると「筋肉を冷やすと反対に筋肉痛が起きやすくなる」というデータもあって、通常行わないというケースも耳にしています。

プロ野球の選手の中にも筋肉を冷やす事に抵抗を持っている選手達はピッチング後やトレーニング後のアイシングを行わない人もいますが、それによって「障害が多発」するわけではありませんので、選手自身の体調管理は自らの考え方によっても大きく分かれていくことになります。

しかしこれだけは言える・・・と思うのは、変形性の関節症(野球肘などで肘の関節面に変形を伴っていた場合)に対する関節周囲への抗炎症効果はアイシングによってかなり改善が見られていますし、特に肘関節や膝関節など、関節に変形を伴ってスポーツや労働などで痛みが発生する頻度が多ければ、アイシングはそれらの炎症抑制に大きく貢献する・・・それは実証的に言えるのではないかと思います。

野球で投球側の肘関節が変形してくれば、当然、肘の曲げ伸ばしに制限が認められる場合がありますが、そのような状態で力発揮をするわけですから、関節には負担がかかりやすし周囲の筋肉群にも防衛的な筋肉の緊張や張りが頻繁に起こり関節内の炎症を引き起こす頻度も多くなります。

そういった状態であれば、練習や試合の後、またはピッチャーであればピッチング後などに「肘や腕がスッポリ入るようなやや大きめのバケツなどを用意して、氷水の中で10分間程度しっかり冷やす」ようなアイシングの手法も効果的です。これはプロ野球の世界でも行われているアイシングの手法になります。

このような方法は足首の捻挫で、ひどい腫れを伴っている場合や酷い打撲を負ってしまった場合にも有効です。但し、打撲の場合には通常のケースでは「アイスバッグ」というアイシング用の氷嚢(ひょうのう)に氷を入れ、患部にそれを直接当てて、その上からラッピング・・・つまりバンテージ(伸縮性包帯様の帯)で圧迫を加えて冷やすような手法もあります。

この場合、冷やす時間は10分~20分程度で間歇的(1時間に1回)に行います。圧迫を加えるのは「患部の腫れを抑える為に有効」だからというのが理由ですが、氷水で冷やす場合にも当然この圧迫が有効になるので、薄い包帯様のもので局所を圧迫してから氷水に直接漬けるといった手法にも大変効果があります。

少年期や成長期におけるアイシングの効果や功罪については様々な論もありますが、基本的な考え方として「打撲や捻挫」「酷使した関節や変形した関節」に対するアイシングに関しては、季節などによる気温やアイシングを行う場所(室内なのか屋外なのか?)、それから部位(心臓から近い場所か遠い場所か?)によってアイシングの手法や実施時間、回数などを考慮しながら行えば問題ありません。

ただし足の裏など心臓からかなり遠い局所を冷やす場合には、たとえ疲れている、痛いからといっても、30分も1時間も続けて冷やしてしまうと、そのうち血行障害などを起して患部の治りが悪くなったり酷い状態になってしまう場合もあるので、アイシングに対する知識をしっかり身につけ、正しい方法・時間、回数、用途をしっかり踏まえ行う必要があります。



<アイシングの手法・その後の処置・対応>


手の指を突き指した場合

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紙コップに氷水を作る
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指にスパイラルテープを行う
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5分~10分程度冷却
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受傷後48時間~72時間、1時間に1回程度の間歇的なアイシングを行う
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骨折や靭帯を痛めている突き指であれば接骨院か整形外科へ行き、患部の整復・固定等の処置を必ず受けるようにする
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先生の指示に従って治療を行う



投球後などの肩へのアイシング

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練習後または試合後、ピッチング後などにアイシングを行うようにする
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アイスバッグを2つ用意しクラッシュ・アイスを満遍なく入れ当てる面を平らにしておく
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肩関節の前・後からアイスバッグを挟み込むようにして当てる
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伸縮バンテージでアイスバッグを圧迫固定する
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15分~20分程度冷却する



投球後、肘へのアイシング

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練習後または試合後、ピッチング後などにアイシングを行うようにする
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やや大きなバケツ(底が深くて肘関節から腕の半分までしっかり漬けられるもの)に氷水を作る
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氷水に直接、肘関節から腕の半分くらいまでを漬ける
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10分~15分程度冷却する



腫れの酷い足首の捻挫

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やや大きなバケツ(底が深くて足首までしっかり漬けられるもの)に氷水を作る
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足首に薄い生地の包帯を巻く(あまり巻きすぎず締めすぎないように注意する)
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椅子に座って楽な体勢で足首を氷水に漬ける
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10分~15分程度冷却する
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受傷後48時間~72時間、できれば1時間に一回程度、間歇的にアイシングを行う
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足首の痛みが持続して歩行が困難であれば、念のため靭帯や骨、軟骨等に異常が無いか、必ず整形外科で検査を行ってもらい、それらに異常がないかどうかを確認してもらう
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患部に異常があれば松葉杖を使って歩行する(患部に体重をかけないようにする)
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歩行が可能になり医師から足首を動かすように指導されてからタオルギャザー等で足の指運動からリハビリを開始する
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お風呂で足首を回したり、底背屈運動、正座などを行ってみる
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局所的な痛みが残っていれば鍼治療・電気療法・温熱療法等を併行して行う
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痛みが軽減してきたら芝生での裸足歩行・裸足ジョギング・平地での軽いダッシュなどを行いながら、バランスボード等で足首を更に鍛える
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爪先立ちからの回旋運動やダッシュからの急停止、左右の動き(サイドステップ)、低い高さの台からジャンプなどを行いながら運動強度を上げていく
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足首に緩みあってぐらつき感などがあれば、サポーターやテーピングで足首を必ず固定保護してスポーツや運動を行うようにする(特にサッカーなどで足首を多用したり足首に負担が多いスポーツを行う場合には、必ずテーピングやサポーターで足首の固定保護を行うようにしながら、足首の強化&ケアを継続して行うようにする。)



膝蓋骨(膝のお皿)の強い打撲

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膝の皮膚面に創傷などがある場合、まず傷面を綺麗にしてから撥水性の絆創膏を張っておき、傷面が濡れないようにしておく(もしくはサランラップで膝のお皿ごと巻いてしまう)
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膝のお皿よりやや大きめのアイスバッグを1つ用意しクラッシュ・アイスを満遍なく入れてから当てる面を平らにしておく
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膝のお皿を中心にアイスバッグを当てる
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伸縮バンテージでアイスバッグを圧迫固定する
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10分~15分程度冷却する
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受傷後48時間から72時間、できれば1時間に一回程度間歇的にアイシングを行う
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受傷後1週間を経ても痛みが残存していたり、膝を完全に曲げられなかったり伸ばせないような場合には、念のため整形外科で患部の検査(レントゲン、MRI等)を行ってもらい医師の指示に従う
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器質的異常(骨や筋肉・靭帯等に異常)が無いのに痛みだけが残存している場合には鍼治療、電気療法等を行う



頭部の打撲(デッドボールや転倒など)

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受傷部に創傷や裂傷があれば、まず傷を綺麗にしておく
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頭部はあまり冷やしすぎないよう注意する
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氷水に漬けたタオルを患部に当てる(冷えすぎないため)
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意識等に異常が無いか、頭痛が無いか、吐き気などがおこってこないか等を3日間は確認するようにして、もしそれらの徴候が認められたら、念のため脳神経外科を受診して医師の指示に従う。