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水泳選手の肩腱板損傷

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昨日は久しぶりに水泳選手の肩関節痛(運動制限を伴う痛み、シビレ症状)に対する施療を行わせていただきましたので、その件に関してここで少しお話ししてみようと思います。これまで肩関節スポーツ障害についてブログ上でも様々な形で書き残してきたのですが、今回のような「スイミング」による肩関節障害と野球の肩関節障害とではその発生機序に違いをまず感じます。

まずボールを投げる動作と水中で水をかく動作では肩周囲の筋肉群に対する負荷抵抗に大きな違いがあります。投球動作で使われるのはより瞬発的な筋力であり、水泳動作で使われるのは持久的な筋力と瞬発的な筋力の両側面ではないかと思います。野球選手のクロストレーニングではよく水泳が用いられる事があります。これは普段使わない筋力を他のスポーツで補うために行われるものですが、そういった面から考えても、水泳と野球で同じ肩関節スポーツ障害が発生するにせよ、使われている筋肉疲労のメカニズムにも当然違いがあるのではないかと思います。

投球動作で肩関節が使われる場合、およそ空気抵抗が皆無ではないにしろ、そのほとんどがボールの重さと自分自身の腕の重さによる運動負荷抵抗でしょう。ところがスイミング動作で肩関節が使われる場合、水中で肩関節を大きく動かしながら自身の腕を使って水をかきながらその水の抵抗を利用しながら前へ進むわけですから、これは投球動作と比較しても、どれだけ肩関節周囲にある筋肉群に疲労が及ぶのかと言えば、これは比較にならないほど負荷抵抗があるのではないかと考えます。

特に肩甲骨のわきにある大菱形筋や肩甲挙上筋、それから首から肩にかけての僧帽筋群に対する疲労度は投球動作による負担の比ではないはずです。スイミングの場合には水圧抵抗が腕にかかりますが、泳ぐ動作というのは持続された水圧抵抗と空中における抵抗解除の繰り返しということになります。もちろん泳法(クロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎ)によって肩周囲の筋肉群への負担のかかりかたも当然変わってくるはずです。特にバタフライや背泳ぎでは腕を大きく廻さなければならない為、その分 運動負荷による肩甲骨周囲への筋群に疲労が及ぶ為、平泳ぎやクロールよりも疲労度が大きくなるはずです。

この中でまず考えておかなければならない重要な点ですが「肩関節を大きく廻す動作によって起こってくる筋疲労と肩関節の障害」の関連性についてです。

昨日訪れてくれたAさんは病院でMRI検査を受けた結果、「肩の腱板損傷」と診断を受けたそうですが、肩腱板というのは4つの小さな筋肉に分類されており、これは「棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋」というものになります。これらは肩関節の回旋動作に関わるものと腕の挙上に関わる筋肉になりますが、そのうちのどれか一か所でも障害を受けているとMRI画像に「白く」映って見えるということになります。

肩腱板というのは肩関節を構成している筋肉群の中でも「インナーマッスル」と呼ばれている「深層筋群」であり、これは肩関節を安定させる働きをしています。このような肩のまわりにある深い場所の筋肉群を傷める一番の原因ですが、これはどういうことかというと「使いすぎ」若しくは「使い方に無理がある」といったケースではないかと考えます。

いずれのケースであったにせよ「筋肉を損傷する」といった場合、例えば転倒して肩を打ったとか、誰かと衝突して肩をぶつけたような外力によって起こってくる障害であれば、これは当然 筋肉への外力的なダメージによって損傷した・・・という明らかな因果関係を見出す事が出来るのですが、多くの肩関節障害の中でもAさんのように水泳動作で肩に痛みが出てきて、それ自体が「筋肉を傷めて痛みやシビレがある」ということであれば、実はその前段階を考察していくと必ずその前に「違和感」や「力が入りにくい状態」を自覚していたはずです。筋肉というのは疲労を起し始めるとまず「力が入りにくく」なります。そうすると今度はどうなるかというと、力が入りにくくなった場所以外の筋肉を使って肩や腕を動かそうとするために「代償性の動き」が入ってきます。

例えば今まで大菱形筋や僧帽筋を使って肩甲骨を大きく動かしていたものが、その大きな筋肉群に疲れが出てきて筋肉に力が入りづらくなってくると、今度は「腕の力」で肩を廻そうとするようになってくるということになります。これは「代償性運動」によって生じてくる云わば「故障=スポーツ障害」の多くの原因であると言えます。

これは野球の投球動作にも言えることで、全身の筋肉や肩の周りにある筋肉に疲労を起し始めると今度はどうなってくるかというと、手首や肘に力が入り始めるのです。そうすると肩の周囲にある筋肉よりも腕の筋肉というのは「小さい筋肉群」になりますから、局所的な負担がかかります。その結果、疲労を起こしている大きな筋群が正常に動作していないが故に今度は肩腱板(インナーマッスル)のような持久的な筋肉群に負担が及び始めるのです。そうやって大きな筋肉群を使っていて、そこが疲労をおこしながら次第に小さな筋肉群にまで疲労が及んでいった結果の中で「肩腱板障害」というものが発生してくるのが所謂「肩腱板障害」の根本的な発生機序ではないかと思います。

体の使い方に無理がある(不正なフォーム)が故障に結びつきやすいのは「筋肉に負担が及ぶ」「その結果、関節に障害が及びやすくなる」からです。使いすぎればそのどちらも起こるということなのです。そしてそれは代償性運動に結びついてくる一番の原因になるからです。

はじめに述べたように「使いすぎ」若しくは「使い方に無理がある」という事自体が筋肉や関節にストレスが及びやすい一番の原因になることは理解できるはずですが、その無理が生じている事をそのまま見過ごしてしまうと必ずスポーツ障害を発生させてしまう・・・ということになります。

これは動きの中で判断できる一番の方法ですが、たとえば後ろから肩甲骨の動きを観察しながら腕を挙げたり下に下ろして貰うと、左右の肩甲骨の動きがアンバランスになっていることがよく確認さることがあります。こういった観察を日々の練習の中でスポーツが終わった後にしっかりチェックしておくと、選手自身の目では確認できない肩周囲にある筋肉群の疲労を予め予知することが出来るのです。私たちトレーナーというのは、そのようにして未然に肩関節障害を防いでいくことを学んできました。また選手自身が自己分析する為には、泳いでいるときや投げているときに「今日は力が入りにくいなぁ」「どうも思ったように肩が回らないなぁ」というその「異常な感覚」を見逃さない・・・という事が最も大切になってきます。これは肩のスポーツ障害を未然に防ぐ一番基本的なことです。

Aさんはこのような経緯で肩のスポーツ障害を発生させてしまったようですが、まず一番大切な事は「全身的なバランスを取り戻すこと」です。そして次に大切な事は「肩関節の正常動作範囲をまず取り戻していきながら、肩周囲にある筋力や全身的な筋力の回復をはかっていく」ということになります。・・・ということはどういうことになるかというと、要するに「練習をある程度続けながら身体バランスを取り戻す動きを充分に取り入れていく」という要素を考えながら練習内容やトレーニング方法を練り直していく必要性がある・・ということになるのです。今までと同じ要素を積み上げていっても、痛めてしまった肩を元に戻すのが困難であれば、今までになかった要素を入れていく必要があるのです。

これがいわばスポーツ・リハビリの考え方として、ただ「痛みや違和感」が無くなればそれでよし・・としないということになるのですが、何度も同じような肩関節障害を繰り返してしまうと最終的にはスポーツ・パフォーマンスを落としていきながら、そういった関節や筋肉の傷害によってスポーツを続けられなくなる・・ということを未然に防ぐ為には怪我を治す以上に、よりそこから得られた故障の経験から何が必要で何が必要でなかったのか・・・を検討することから始めなければならないということなのです。でなければ又同じことの繰り返しになる可能性が高いのです。そしてそこまで選手のフォローが出来ないのであれば、本来はスポーツ傷害を完治させていく真の意味は当然薄れてきます。一時しのぎで痛みを緩和させたり動くように出来たとしても、実はその後の方が大切ではないかと思いますが、そこまで選手自身が意識を高めていけるかどうか・・・というところに私はいつも目を向けています。

多くのスポーツによる肩関節障害に携わりながらこれだけは言えるのではないか?と思うことは、理に叶った施療、理に叶ったリハビリ・プログラム・・・この2点がまず備わる必要性がある・・・ということと、一番大切なのは「選手自身がそれらを正しく認識して、傷害発生を機として自分自身のスポーツ競技への自己意識改革を進め更に高めていく」ということではないでしょうか。一流のスポーツ選手達の中にある意識とは、まず「故障しない為の体作り、パフォーマンスを高く維持できるようなトレーニング」と、「故障を起した際に得た経験からの自己意識改革」であるはずです。

今回のAさんのケースでは前回に感じた傷害程度よりも更に一段高いステップになると思いますが、その分 技術的なレベルや体力の向上を経ながら出現してきた「壁」ではないかと思います。このような「故障という壁」を克服していく為に、Aさんが横浜・多宝堂治療院を選択された理由の中に真の信頼を感じるからこそ、このような内容でブログを綴らせて頂きました。(by 院長)