プロ野球生活と高校球児
毎年11月にはNPBドラフト会議が行われますが、この年末のドラフト会議で有能な高校生選手達が各プロ球団から候補に挙げられ指名されていきます。
プロ各球団では各地域(北海道、東北、関東、中部信越、関西、四国、山陰山陽、九州(沖縄))にスカウトが配置・配属されており、このスカウト陣によって各地域の有能な高校野球選手達の発掘が行われています。
プロ野球入りを志望している高校野球選手にとっては当然、夏の甲子園大会は絶好のチャンスとなりますが、それは甲子園大会では各プロ球団のスカウト達がバックネット裏で毎試合観戦して目を光らせているからです。
ドラフト会議で指名された新人の高校生達が契約を終えてから一番初めに行われるのが「メディカル・チェック」です。これは高校生に限ったものではなく、もちろん大学生も社会人選手もみな同じです。
メディカル・チェックというのは、「肩・肘・腰・膝・足首」など、選手達の各関節に対する医学的な臨床検査を受けることになりますが、具体的に言えば、レントゲンによる画像診断や場合によってはMRIなどの精査を受ける事となります。
それから肩関節や肘関節の可動域(関節の動く範囲)を調べておき、入団後に故障が発生した際には、きちんと状態を比較出来るようにする為、それらが「数値データ」として残されています。
このメディカル・チェックによって異常が発見された場合や、選手達に「何か自覚症状がある場合」には、そこで必要な精密検査も加えられ行われていくのですが、今後、野球を続けていく上で支障が出てくるようなケースが考えられることを想定しながら、たとえば春の2月のキャンプ前に、もし手術が必要であるとか、リハビリを行っておく必要が有る場合では、他の選手達とは別の対応が行われることになります。
毎年1月の10日過ぎ辺りから各チームの新人選手達を集め合同自主トレーニングが始まりますが、その前に体力測定や身体計測等が行われ、現状においての運動能力や身体発達などを調べます。
高校野球を経てプロに入団してくる選手達の中には、肩や肘に問題を抱えてしまった選手もなかには出てくるのですが、致命的な障害以外は1月中に何らかの形でトレーナーによる対応を行っていくこととなります。
もし春のキャンプに間に合わないと判断される場合には、別メニューを用意したり、全体練習に参加できないケースでは、「リハビリ選手」としてファームにおけるキャンプ・インとなります。
高校生達の場合には、総合的に見ても、下肢や体幹(腹背筋、腹側筋、股関節など)筋力の弱い選手が割と多く、またこれらの調整力にも、既存のプロ野球選手達と比べるとかなり差がある選手が多いことにも気がつきます。
もちろん高校生の中だけで判断すれば、技術的にも体力的にもこれらの素養は頂点にあるはずですが、プロ球団の中から判断すれば、それでも「普通」か「普通以下」となる厳しい現実もあります。
プロに入れば、まず瞬発力・調整力・持久力など総合的な視野に立って行われるトレーニングが行われたり、1年を通じて野球が続けられるようにコンディショニング法も身に付けさせていきます。それと同時に、技術面(投・打・守・走)に関しても、まず基本がしっかり出来ているのか?ということで、各技術コーチ(投手・捕手・内野守備・外野守備走塁コーチ)からの評価が行われるため、高校生の場合、春の2月のキャンプに入れば徹底的な基本技術の反復練習が行われるケースもあります。もちろん技術的に群を抜いて素晴らしい素質をもった選手達の場合には、元々もっているその技術に対する「指導」が及ぶことは、あまりありません。
しかし投球動作や守備動作、バッテイング動作や走動作の中で故障に繋がるような原因があった場合や、現在のそのままの技術ではプロで通用しない・・と判断される技術面に関しては、その後に改善されていくケースも当然出てくるでしょう。
例えばバッテイングに人並み外れた力(パワー)があったとしても、プロのピッチャーのスピード・ボールや変化球に対応できなければ、当然、バッティング・フォームの改造も迫られます。
またピッチャーでは並外れた速球を持っていたとしてもコントロールが一定に保たれていなければ、当然 フォームの改善、投球に入る前の姿勢を変更していく場合も出てくるでしょう。
しかし私自身が長い間プロの現場で高校生達を観てきて、「ここが素晴らしい」というものを必ず持って入ってきているわけですから、「俺はこの技術でここまでやってきた」という各選手たちの、そういった自負心は必ずあるとも言えます。
特にエース・ピッチャーやスラッガーの場合には、そういった「こだわり」を強く持っているので、そのままの形がプロ野球の中で通用していけば全く問題は無いのですが、2軍(ファーム)の試合でもそれらの技術がなかなか通用しないと実感していくと、当然、選手は「悩む」ことになります。
「通用しない=結果が出ない」ということは、当然 本人の自信喪失にも繋がるので、こういった際には各技術コーチがカウンセリングを選手に日々行いながら、個人練習などを通じてマンツーマンで技術指導されていく場面もあります。
高校野球を経て、プロ球団に入団してくる高校生達を私自身が見てきて一番に気がついた事は、高校時代、若しくはアマチュア時代に培ってきた技術の元を辿っていくと、学生時代に指導されてきた「基本的な考え方やフォーム」に対する選手達の無意識的な「信頼、信条」があるという事です。
「この打ち方でプロに入れた」「この投げ方で甲子園を投げ抜いてきた」
これがまず一番初めに訪れるだろう高校生達のプロに入ってきた後の大きな精神的な壁ではないかと感じてきました。
高校野球を経てプロに入団してくる選手達の中には、プロ入り1年目から1軍で活躍する選手も当然います。しかしその多くが「育成」を対象とされた選手達ばかりですから、初めは2軍(ファーム)からの活動となります。
来る日も来る日も毎日野球を続けるわけですから、逃げ場などは当然ありません。ましてや寮生活となれば門限があったり、集団規則の範囲の中で生活を送ることとなります。また夜間練習も毎日行われていますから、本当に野球漬けの日々になるわけです。
高校生達がプロの世界へ入ってきたばかりの頃にまず培われていく「厳しさ」や「葛藤」というのは、その後の彼らの選手活動の芯の部分を作り支えてゆきながら、人間的にも素晴らしい軸を築きあげているのではないか?と感じますが、そこには当然、多くの「挑戦が待っている」とも言えるでしょう。
彼らが厳しい毎日を乗り越えて、1軍の試合で結果を出すことができれば、周囲で指導し支えてきた指導者達も本当に喜びます。当然 選手自身も最高だと感じるだろうし、1軍で野球が出来れば給料(報酬)だって増えるわけですから嬉しくないはずがありません。
しかしその後も1軍で野球を続けお金を稼いでいくためには、まず相手チームに勝つ前に、「チーム内」で勝ちゆかなければなりません。そして最終的には「自分との戦い」に勝ちゆき野球を続けていくことが出来なければ、プロ野球の世界で長い選手生活を送ることは難しいとも言えるでしょう。
その中で言えることは、故障をしない技術や身体的要素も必要であるし、ブレない精神的な支柱も当然培われていかなければならない・・・そういうことです。そして毎年結果を出し続けていかなければ、「そのポジションに残れない」というチーム内による「切磋琢磨」があるからこそ、そこに挑んでいる選手達がチームを牽引しながら強くなっていく・・・そういうことではないかと思います。
「プロ」とはそういう場所であり、いかに力を持った素晴らしい高校球児であろうとも、必ず試練が待っている・・・という事です。そして周囲の励ましや応援も沢山あると思うのですが、それが反対に大きなプレッシャーとなって自分自身の背中にのしかかってくる場面も沢山ある・・・ということでしょう。
だからこそ精神的な強さ、自らの壁を破る戦いがあって初めて、プロで活躍するような選手だけが「本物の野球選手」になっていくのではないかと感じています。
まだまだ書きたい事は山ほどありますが、夏の甲子園大会・・・・今年も本当に楽しみですね。甲子園大会の中から、また来年度からプロのユニフォームを着る選手達が大勢活躍することを期待しながら、ここから応援していきたいと思っています。(by院長)